2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H03512
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膠芽腫 / ATRX / テモゾロミド / CRISPRスクリーニング / エピゲノム制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度までに樹立した3つのドキシサイキリン誘導性ATRXノックアウト細胞株を用いて、ゲノムワイドCRISPR loss-of-functionスクリーニングを実施した。これらの細胞株を用いたスクリーニングは、ATRXノックアウト下のみならず、現在膠芽腫唯一の治療薬となっているアルキル化剤テモゾロミド(TMZ)の投与下においても実施した。まずこれら3種の細胞株にCRISPR H3ライブラリを感染させ、十分にATRXノックアウトによる影響が出るように、ドキシサイクリン+/-およびTMZ+/-の条件下でそれぞれの細胞株を3週間培養した。その後DNA抽出を行い、CRISPRライブラリ部分をPCRにて増幅して次世代シークエンス解析を行なった。CRISPR解析用パイプラインであるMAGeCKFluteを用い、negative selectionから合成致死性遺伝子候補、positive selectionから治療抵抗性遺伝子候補の抽出を試み、ATRXノックアウトとTMZ投与下において合成致死性・治療抵抗性を示す因子をそれぞれ複数同定することに成功した。今後これら候補因子の個別ノックアウト株を樹立してスクリーニングのバリデーションを進めることで、新規合成致死性療法の開発と薬剤耐性メカニズムの解明につながる研究成果が得られることが期待される。一方、ATRXによるエピゲノム制御機構を明らかにするため、樹立したATRXノックアウト細胞株を用いてChIP-seq解析も行い、ATRX特異的なゲノム結合領域を明らかにした。また、TMZに対する薬剤耐性化過程の細胞進化軌跡の解明に向け、モデル細胞株を用いたバーコード技術の開発・最適化を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に樹立したCas9安定発現株を用いたATRXノックアウトの系を応用し、Cas9をドキシサイクリン誘導性のiCas9へと変更して再度誘導性ノックアウト細胞株を3種類樹立することができたため、これらを対象としたゲノムワイドCRISPR loss-of-functionスクリーニングを実施した。また、当初計画には含めていなかった、TMZ投与下におけるスクリーニングも3種類全ての細胞株で並行して進めることができた。CRISPR解析用パイプラインであるMAGeCKFluteを用いたデータ解析も特段の問題なく順調に進んだ。スクリーニングのデータ解析結果からは、合成致死性・薬剤耐性に関わる候補因子群の両方で非常に興味深い遺伝子群が釣れてきており、来年度に実施予定の個別バリデーションの結果から有望な治療標的を発見することが期待できる。また、ATRXノックアウトの系を用いたChIP-seq解析から、ATRX特異的なゲノム結合領域とノックアウトによるその減弱が明らかとなったことから、RNA-seqおよびATAC-seqを追加実施してATRXによるエピゲノム制御機構を包括的に明らかにするための実験系を整えることができたと言える。また、TMZに対する薬剤耐性化過程における細胞の進化軌跡の解明研究に関するバーコード技術の準備は順調に進み、モデル細胞株を用いた予備検討からバーコードライブラリウイルスのクオリティと耐性化実験及び解析パイプラインがワークすることを確認できた。以上のように、当初の研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に実施したゲノムワイドCRISPR loss-of-functionスクリーニングから得られた候補因子群には興味深い標的が複数含まれていたため、今後これら候補因子の個別ノックアウト株を樹立してスクリーニングのバリデーションを進めることで、ATRX変異陽性膠芽腫に対する新規合成致死性療法のシーズ同定へと歩を進める。また、TMZ投与後にenrichしたsgRNAsの解析を詳細に進めることで、TMZに対する新たな薬剤耐性化メカニズムの解明につながる研究成果を得ることを目指す。一方、本年度はATRXのグローバルなゲノム結合領域を明らかにすることができたことから、今後RNA-seqやATAC-seqとの統合解析を進め、ATRXのon/off条件下における遺伝子発現変動やクロマチンのオープン・クローズ状態を理解することで、ATRXによるエピゲノム制御機構を明らかにしていく。加えて、上記のCRISPRスクリーニングにて実施したTMZ投与の系を利用し、細胞バーコード化技術を用いた薬剤耐性化過程における進化軌跡の解明研究を進めていく予定である。バーコードによる細胞系譜追跡から薬剤耐性化メカニズムを1細胞レベルで解明し、CRISPRスクリーニングから得られる薬剤耐性化メカニズムと併せて統合的な理解を図ることで、TMZに対する薬剤耐性の根幹を成すバイオロジーを明らかにする。以上のような複数のアプローチを組み合わせることにより、ATRX変異陽性膠芽腫に対する新たな治療法の開発と、現在唯一の治療薬であるTMZに対する薬剤耐性化を克服する治療法の確立を目指す。
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Research Products
(2 results)