2021 Fiscal Year Annual Research Report
KRAS/LKB1変異型肺がんが示す免疫チェックポイント阻害薬治療耐性の克服
Project/Area Number |
20H03521
|
Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
北嶋 俊輔 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 研究員 (90566465)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 非小細胞肺がん / KRAS / STING / LKB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでに研究代表者が既存薬を用いた薬剤スクリーニングにより、強いSTING経路活性化能を有する薬剤として見出したMPS1阻害剤が、免疫チェックポイント阻害剤に治療抵抗性を示すKRAS;LKB1変異(KL)型非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、STING経路依存的に免疫原性を誘導し、抗腫瘍免疫を介して治療効果を示すかを検討した。マウスモデルを用いて治療効果を検討するために、まずヒトKL型NSCLCと同様に免疫療法に対して治療抵抗性を示し、同系マウスに皮下移植可能なマウスKL型NSCLC細胞を作製した。STING経路を活性化するMPS1阻害剤の投与条件をin vitro, in vivoで最適化した後、本マウスモデルを用いて抗腫瘍効果を検討したところ、計4日間のMPS1阻害剤投与のみで、マウスの体重減少無しに長期的な腫瘍抑制効果を示した。特に、KL型NSCLCに対してSTINGの発現を誘導するDNMT阻害剤Decitabineを、MPS1阻害剤投与前に1週間投与することにより、ほとんどの個体(6/7)で治療開始から2ヶ月以上、再増殖無しに腫瘍抑制効果が維持された。併用群においても、治療開始初期にDecitabineは合計7日間、MPS1阻害剤BAY-1217389は合計4日間投与したのみであり、その後は薬剤投与無しに長期的な奏功を達成することから、抗腫瘍免疫の関連が示唆された。実際に、本マウスモデルの未治療群では、腫瘍辺縁部にCD8陽性T細胞が集積することがわかったが、併用群ではCD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤の比率が上昇すること、さらには中和抗体によるCD8陽性T細胞除去により治療効果が顕著に抑制されることから、MPS1阻害剤を基盤とした本併用療法による抗腫瘍効果の少なくとも一部は抗腫瘍免疫を介していることを証明することが出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究実施計画は、主に「1、STING経路を誘導するためのMPS1阻害剤投与最適条件の決定」と「2、MPS1阻害剤投与による抗腫瘍免疫活性化の評価」であった。 1に関しては、マウス皮下移植モデルを用いて、MPS1阻害剤BAY-1217389投与後の薬力学試験の実施、最適な投薬スケジュールの検討を行った。薬力学試験として、STING経路の下流シグナルであるpTBK1、pSTAT1をウエスタンブロットにより、下流サイトカインであるCXCL10やIFNbの発現変化をqRT-PCRにより解析した。条件検討の結果、5mg/kg BID for 2daysという投与条件で、少なくとも投与後24時間から6日後までSTING経路の活性化が観察された。またDecitabineの投与条件最適化に関して、0.5mg/kg QD for 7daysという投与条件で、マウスの体重減少無しにSTING経路を活性化することを見出した。 2に関しては、研究実績概要の項目においても記載したが、上記の投与条件で計4日間のMPS1阻害剤投与のみで、マウスの体重減少無しに長期的な腫瘍抑制効果を示した。特に、DecitabineとMPS1阻害剤の併用により、ほとんどの個体で治療開始から2ヶ月以上、再増殖無しに腫瘍抑制効果が維持された。これらの結果は、免疫不全マウスを用いたXenograftモデルを用いてMPS1阻害剤の奏功を評価した過去の報告と比較しても抗腫瘍効果が強く、免疫細胞の関与が示唆された。また実際に、中和抗体投与により予めCD8陽性細胞を除去することでこれらの治療効果が強く抑制されることから、本併用療法による抗腫瘍効果の少なくとも一部は抗腫瘍免疫を介していることが証明された。 以上の研究進捗状況から、2021年度の研究目標に関しておおむね順調に達成したと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究方針として、これまでに明らかにしたMPS1阻害剤投与によるSTING経路を介した抗腫瘍免疫経路の活性化にさらに焦点を当て、KL型非小細胞肺がん(NSCLC)に加えて、免疫チェックポイント治療抵抗性を示すその他のがん種に対しても、MPS1阻害剤投与が免疫チェックポイント治療抵抗性の克服に寄与するかを検討する。具体的には、研究代表者がこれまでに開発したKL型NSCLCマウスモデルに加えて、B16F10メラノーマやLewis Lung Carcinoma モデルなど既知の免疫チェックポイント治療抵抗性を示すマウスモデルを用いて、MPS1阻害剤と抗PD-1抗体の併用療法開発を行う。抗PD-1抗体およびMPS1阻害剤単剤あるいは併用に伴う、腫瘍形成に与える影響を解析するとともに、腫瘍組織を回収し、遺伝子発現や微小環境内の免疫細胞の組成をWestern BlottingやRNA-sequence、Flowcytometry、免疫染色などにより解析する。またMPS1阻害剤投与による抗腫瘍免疫経路の活性化がSTING経路活性化依存的であることをIn vivoで検証するため、上述したKL型NSCLCやB16F10メラノーマ細胞を用いてCRISPR/Cas9系によりSTINGあるいは上流因子であるcGAS欠損細胞を作製し、MPS1阻害剤と抗PD-1抗体の併用療法の治療効果等に与える影響を解析する。またMPS1阻害剤投与による抗腫瘍免疫経路活性化の機序としてSTING非依存的な経路が存在する可能性も見出しており、さらなる詳細な分子機序の解明を目指す。
|
Research Products
(5 results)