2020 Fiscal Year Annual Research Report
マウスモデルを用いた順遺伝学的手法による新規大腸がん治療標的の同定と機能検証
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20H03522
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
武田 はるな 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (80647975)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大腸炎 / がん関連遺伝子 / トランスポゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸がんの新規治療標的遺伝子を探索するために、二つの課題に分けて研究を進めている。 A.炎症を伴う大腸がん関連遺伝子の生体内スクリーニング 炎症を伴う大腸がんは予後が悪い場合が多いことが知られている。本研究では、Sleeping Beauty(SB)トランスポゾンを用いたマウス生体内スクリーニングを行い、慢性炎症と協調作用を示してがん形成に関与する遺伝子の網羅的同定を行っている。SBトランスポゾンシステムは、人工的に改変されたトランスポゾンをマウス体細胞で転移させて挿入変異を誘発し、形成された腫瘍ゲノム中のトランスポゾン挿入部位を同定することで、がん関連遺伝子を網羅的に同定する手法である。本年度は、コンディショナルSBトランスポゾン転移酵素ノックインマウスとSBトランスポゾントランスジェニックマウス、大腸上皮細胞特異的にCreを発現するトランスジェニックマウスを交配させ、トランスポゾン挿入変異が大腸上皮細胞で誘発されているマウスを作成した。これらマウスにデキストラン硫酸塩(DSS)を投与することで大腸炎を引き起こした。その結果、慢性炎症を伴う大腸腫瘍が形成されたので、これら腫瘍の解析を行った。 B. CRISPRを用いたAPC遺伝子欠損細胞における合成致死遺伝子の網羅的探索 大腸がんの8割がAPC機能欠損変異を保持することに着目し、APC機能欠損細胞において合成致死となる遺伝子を、CRISPR-Cas9にて網羅的に探索し、大腸がんの新規治療標的となりうる遺伝子を同定する。本年度はAPC欠損大腸がん細胞株へCas9を発現させ、gRNAライブラリの調整を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A.炎症を伴う大腸がん関連遺伝子の生体内スクリーニング 本年度はまず、マウスに大腸炎を誘導させるための条件検討を行った。2.5%DSSを2週間おきに3回投与し、3回目投与後7日、14日の各時点でマウスを解剖して大腸表面の観察、病理組織標本作成、RNA抽出を行なった。実体顕微鏡下で観察すると、大腸粘膜の腫れや出血が観察された。こうした部位は上皮構造の乱れが起きていることを病理組織標本の観察により確認した。また、DSS投与マウス大腸組織では炎症性サイトカインの発現が上昇することを確認した。 この条件下で、SBによる挿入変異を誘発させたマウスにDSSを投与し大腸炎を引き起こした。貧血や脱肛等の症状を呈したマウスを解剖し、大腸腫瘍数、腫瘍の大きさについて計測した。腫瘍を採取し、病理組織標本作成と腫瘍ゲノム抽出を行なった。HE染色を行い病理組織像を観察したところ、半数程度が悪性度の高い腫瘍であった。次に、腫瘍ゲノムよりライブラリを調整し、次世代シーケンサーでSBトランスポゾン高頻度挿入部位を決定し、候補遺伝子約100個を同定した。情報解析パイプラインは共同研究により確立した。最も高頻度に変異のある遺伝子は、大腸の重要ながん抑制遺伝子である Apcであった。Apc変異は、散発性大腸がん・大腸炎関連がん共に高頻度で変異の認められる遺伝子であることが知られている。また、大腸炎関連がんで高頻度に変異の認められるp53変異も同定されたことから、本スクリーニングはヒトの大腸炎関連がんをよくモデルしている実験系であることが示される。その他、これまでの大腸炎関連がん研究において変異が報告されていない遺伝子も多数同定された。 B.CRISPRを用いたAPC遺伝子欠損細胞における合成致死遺伝子の網羅的探索 本年度はAPC欠損大腸がん細胞株へCas9をレンチウイルスにて発現させた。また全遺伝子を標的としたgRNAライブラリの調整を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画に沿ってマウスの解析・腫瘍採取を進め、網羅的に大腸炎関連がん遺伝子を同定する。次に、DSS非投与マウスに形成された腫瘍で同定された遺伝子と比較し、大腸炎関連がん特異的に変異の認められる遺伝子を抽出する。抽出した候補遺伝子群に関し、大腸オルガノイドを用いて詳細な機能検証・機能解析を行う。具体的には、腫瘍抑制的に機能する遺伝子に着目し、オルガノイド において CRISPRによりノックアウトする。この遺伝子改変オルガノイド を免疫不全マウスへ移植しがん化能をマウス生体内で検証する。また、炎症性サイトカインへの反応性をアッセイすることで炎症反応との関連を分子レベルで解明する。 大腸炎が腫瘍形成に与える影響を解明するために、 DSS投与マウス大腸の炎症部位よりオルガノイドを樹立し遺伝子発現解析を行う。これにより、慢性炎症に対する上皮細胞の応答を明らかにし、大腸炎と腫瘍形成の関連を解明する。
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