2021 Fiscal Year Annual Research Report
Realtime manipulation of hippocampal spike sequences in rats
Project/Area Number |
20H03545
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐々木 拓哉 東北大学, 薬学研究科, 教授 (70741031)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 海馬 / スパイク列 / 空間課題 / 同期活動 / シータ波 |
Outline of Annual Research Achievements |
海馬神経細胞は、多様な同期スパイク列を生じ、行動設計や空間表象、意思決定など複雑な脳機能を司る。従来の研究は、神経活動の「計測」を基にした行動との相関解析がほとんどであったが、近年では検出された信号に基づくリアルタイムフィードバック操作により、標的とする脳活動を選択的に操作することで、因果的な検証を行うことが可能になりつつある。これまでに本研究では、ラット海馬にテトロード電極を多数埋め込み、神経同期スパイク(主にシャープウェーブリップル)を測定中にリアルタイムで検出し、同時に海馬にフィードバック刺激を加えることで、その同期スパイク列のみを時間選択的に攪乱させる方法を確立した。さらに今年度は、空間迷路課題を遂行中のラットにおいて、光感受性分子を特定の脳部位に発現させ、光ファイバーを通じた光刺激により、時間選択的に抑制できる方法を確立した。これにより、報酬中に主に観察されるシャープウェーブリップルに加えて、行動中に主に観察されるシータ波の強度を操作できるようになった。さらに、これらの方法を用いて、動物の記憶獲得またはその後の記憶固定の際に、どのようなスパイク列が影響受け、全体のネットワーク活動を維持するか、データ取得を開始した。また、同法を用いて、ストレス経験中や経験後に生じる海馬神経活動にリアルタイムフィードバック操作を行い、実際のストレス負荷後の行動が変容することを見出した。これらは、神経活動への時間選択的な直接介入という方法ではじめて明らかになった知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラットの海馬CA1野からテトロード電極を用いて神経活動の記録を行った (これまでに228細胞)。ラットの走行時、報酬時、休息時の活動を計測するために、Uトラック課題を用いて、行動課題とその前後の休息時において記録を行った。走行時の場所細胞の活動に着目するために、走行時において特定の場所で活動した細胞を場所細胞として定義した。この時期にはシータ波が観察された。また、休息時と報酬時では、リップルを伴った同期発火を検出した。前年度までに、スパイク列の相関解析を行うことで、報酬時の活動によって休息時の活動に変化が起こることが示唆されていたため、報酬時の活動を阻害することにより、活動の変化に対する報酬時の活動の必要性を検証した。ここでは、報酬時においてリップルを検出すると同時に、電気刺激を行い、海馬の活動を抑制した。電極はventral hippocampal commissureに挿入した。この部位を電気刺激することで海馬の活動を抑制できることが知られており、本研究でも同様の現象を確認した。これにより、海馬神経回路に起こる可塑的変化が阻害されている場合、休息時において本来起こるはずの変化が抑制されていると考えられる。そこで、休息時の発火相関の変化を調べ、阻害の有無で比較を行った。阻害を行っていないラットでは、多くの細胞ペアで発火相関が上昇する傾向が見られた。しかし、阻害を行ったラットでは、発火相関が変化する細胞ペアが少なくなった。発火相関の差を比較すると、阻害を行ったラットにおいて発火相関の差が有意に小さくなった。この結果は、報酬時のリップル中の同期発火が、休息時の活動の変化に必要であることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も採用する実験技術は同様であり、テトロード電極群を海馬に埋め込み、海馬神経細胞のスパイク列をマルチユニット計測する。さらに、スパイク列の中身(どの神経細胞が活動したか)をリアルタイムで検出し、フィードバック操作を行うための技術確立を目指す。ここでは、マルチユニット計測において、電気信号波形から各ニューロンのスパイク信号を抽出する。通常、この解析過程は実験後に時間をかけて行うが、本研究では信号取得と同時にソーティング解析を行う。独自のMatlabコードを組み合わせることで、5つ程度の細胞について、オンラインで正確にスパイク信号を検出する。これらについて、個別にトリガー信号を生成して、オンライン操作の対象とする。オンライン操作の過程では、ソーティングされたスパイク信号の中に、標的の同期スパイク列が検出されたら、その瞬間(5 ミリ秒以内を目標)に海馬にフィードバック刺激(投射線維のfimbria領域への電気刺激、または海馬錐体細胞への光刺激)を与える。このために、1つの実験を、サンプル相、解読相、オンライン操作相に分け、全体を2時間以内に行うこととする。この時間内であれば、同じ電極から同じ神経細胞を記録し続けることが可能である。解読相で見出された標的の神経同期スパイクが検出されたら、オンライン操作相で海馬にフィードバック刺激を与え、目的の同期スパイク列を消失させる。想定される結果として、例えば、特定の環境で同期スパイクを操作した時にのみ、適切な経路を辿れなくなる(行動設計の阻害)、新しく覚えるべき経路の学習ができない(学習の阻害)などの行動発現が予想される。以上の結果が示せれば、神経同期スパイク列と行動の因果関係を示唆する直接的な証拠になると期待する。
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Research Products
(5 results)