2020 Fiscal Year Annual Research Report
神経発達症におけるSCN2A欠損と環境要因の相互作用の解明
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20H03566
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
山川 和弘 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (30241235)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自閉症 |
Outline of Annual Research Achievements |
SCN2Aは自閉スペクトラム症や統合失調症などの神経発達症を有する患者で最も頻度高く新生ヘテロ機能喪失変異が見られる遺伝子である。しかし、Scn2aヘテロ欠失マウスは、新規環境下における過活動、不安行動の亢進と恐怖除去障害などの異常は示すが、他者への興味の喪失などの社会性異常などははっきりと見出されない(Tatsukawa et al., Mol Autism 10:15, 2019)。Scn2a遺伝子の全身ホモ欠失マウスは新生児期致死である。そこで、限局した脳部位でのScn2aホモ欠失により、生存可能なマウスモデルを作出し、それらにおける社会性行動異常の検出やScn2aヘテロ欠失マウスで既に見られた行動異常の再現などによる責任脳領域の同定を期待して実験を行った。2020年度は、ホモfloxed-Scn2aマウス(Ogiwara et al., Commun Biol 2018)の、これらの異常をもたらすと予想される脳部位(前頭前野、背側線条体、側坐核、視床下部、扁桃体、腹側被蓋野など)にCreリコンビナーゼを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV-Cre)を打ち込み、責任領域の同定を試みた。結果、一部脳領域において社会性行動異常やプレパルス抑制の亢進などの行動異常の傾向を見出すことに成功し、更にそれらの再現性の確認、注入部位の正確性の確認、それら脳領域におけるScn2aがコードするNav1.2タンパクが発現する神経細胞種の探索などを進めた。その他、行動異常発現を左右する環境因子の同定のためのマウスモデルの準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画の第一は、SCN2A機能喪失変異により引き起こされる行動異常・生理学的異常の神経細胞種・回路の解明について、それぞれの異常をもたらすと予想さ れるfloxed-Scn2aマウスの脳部位(mPFC、CPu、側坐核(NAc)、視床下部、扁桃体など)にCreリコンビナーゼを組み込んだアデノ随伴ウイル ス(AAV-Cre)を打ち込み、スリーチャンバーテ スト、複数匹でのオープンフィールドテストなどにより社会性異常の検出により責任領域候補を同定することであり、これは順調に進んだ。行動異常における遺伝要因(SCN2A遺伝子変異)と環境要因(免疫負荷)との相関・相乗効果の解明については、まず、Scn2a+/-マウス仔獣に 対して生後すぐ(生後2日)からのpoly(I:C)の連続投与に加え、社会的隔離も条件として加えて、スリーチャンバーテスト、複数匹でのオープンフィール ドテストなどにより社会性の異常を評価し、Scn2aの半減との相乗効果の有無を明らかにすることとし、対象マウスの準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、これらの発症に関わる神経回路をScn2a局所ノックアウトマウスや逆行性レンチウイルス遺伝子導入システムNeuRet、薬理遺伝学的神経興奮/抑制システムDREADD、カルシウム透過型AMPA受容体抑制薬NASPM、AMPA受容体機能促進薬CX516、GABA受容体作動薬muscimolなどの薬剤の局所注入、脳スライスパッチ、局所フィールド記録やテトロード電極などの複数電極を用いた細胞外記録法などの手法を駆使し、更には新たに光遺伝学的手法なども導入して明らかにしていく。特に、Scn2a+/-マウスにおいて再現性良く安定して検出される恐怖除去障害については、扁桃体中心核から始まる神経回路が過剰な恐怖の抑制を担うことやNAcに投射するドーパミンが消去に重要であることなどが報告されており、これらの神経核を中心とした解析を進める。
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