2020 Fiscal Year Annual Research Report
社会構造が個人の精神・脳機能に内在化する過程の理解に基づく精神疾患脳病態の解明
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20H03596
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
笠井 清登 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80322056)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会構造 / 精神疾患 / 脳機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京ティーンコホートサブサンプルの11歳時調査のデータから、思春期の男児において、社会的にひきこもる傾向とテストステロン低値が有意に相関することを見出し、社会ストレスとホルモンの相互作用が示唆された。また、同じく東京ティーンコホートサブサンプルのデータから、第一子とそれ以外の児で、兄弟でも脳機能回路に変化がみられることがわかった。このことは、生まれ順により、家族内や社会で期待される規範や行動等が異なることの影響である可能性がある。また、世代間または同世代内でのトラウマという対人・社会ストレスの脳機能との関連をみるために、トラウマを後方視的に調査できるオリジナル指標を開発した。その結果、既存の尺度との間に正の相関が認められるなど妥当性のある尺度を作成でき、536名の精神疾患患者(うつ病群356名、双極性障害群147名、統合失調症群33名)を対象として、該当群と非該当群に分けて検討行った結果、水平関係において生じるトラウマがどの疾患においても最も多いことが明らかとなった。また、1965年生まれを前後に、それ以前の生まれの人は垂直関係のトラウマが多く、それ以降の生まれの人は水平関係のトラウマが多い傾向が認められた。さらに、22q11.2欠失症候群を精神機能と社会構造のアンマッチによるストレスモデルと仮説をたて、まず本症候群のモデル動物を用いて、基底核の遺伝子発現異常を見出した。MRIと社会構造ストレスの関係を検討する際に、基底核の体積やコネクティビティに着目することの有用であるとの知見を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
社会構造ストレスの定量化は本来的に困難であるが、それを克服し、生まれ年によってその時代の社会構造ストレスへの曝露が異なるという仮説にもとづく検討を開始でき、かつ仮説通り、世代間または同世代内のトラウマへの曝露状況が異なることを明らかにできたことなど、順調に研究を進めることができたと言える。また、コロナ禍により被検者のリクルートが行えない期間が長かったが、その分、モデル動物を用いた検討により、社会構造ストレスに関連する脳部位の仮説を絞り込めたため、今後MRI解析を行う際の統計学的パワー不足の問題は解消された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、既存MRIデータおよび、当院こころの検査入院を通じて収集されたNIRSデータを用いて、社会構造ストレス、トラウマ体験と、脳構造・機能との対応を検討する。また、当教室におけるAYA世代精神疾患患者に対する統合的介入法の開発研究(The comprehensive studies on AYA for better mental health Care [CAYAC])をもとに、前年度に引き続きリクルートし、脳画像データを取得、社会構造が脳構造・機能に与える影響を解析する。さらに、2020年度の研究から、22q11.2欠失症候群においては、染色体の部分欠失に伴う生物学的基盤を持つ高度な不安や恐怖、知的障害といった素因に加えて、多疾患併存のため、既存の医療、教育、福祉制度などの、単一障害のある人に最適化された社会構造とのアンマッチによりストレスが増大し、脳機能に再帰的に影響を与えるという脳ー社会構造ストレスの悪循環のモデル状況となるという仮説をたてた。その仮説を検証するために、厚生労働省健康局難病対策課が提供する指定難病患者データベース及び小児慢性特定疾病児童等データベースを用いるとともに、当院精神神経科の22q11.2欠失症候群専門外来患者の後方視的疫学調査により、多疾患併存、不安・恐怖増大、QOL・社会適応低下等の関連を検討する。この仮説が検証されれば、2020年度の実績にもとづき、基底核に着目した脳ー社会構造ストレスの関連研究を推進できると考えている。
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Research Products
(5 results)