2020 Fiscal Year Annual Research Report
悪性中皮腫におけるオキシトシン受容体を標的とした新規治療法の開発
Project/Area Number |
20H03689
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田中 一大 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40809810)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関戸 好孝 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学分野, 副所長兼分野長 (00311712)
森瀬 昌宏 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (00612756)
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (70467281)
松原 大祐 自治医科大学, 医学部, 准教授 (80415554)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 悪性中皮腫 / オキシトシン受容体 / オキシトシン / 腫瘍増殖因子 / 細胞周期停止 / オキシトシン受容体阻害剤 / 新規治療戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において、悪性中皮腫におけるオキシトシン受容体の発現増強のメカニズム及びさらなる機能解析を行った。悪性中皮腫で特徴的に不活化している腫瘍抑制因子であるNF2をノックダウンすると、オキシトシン受容体の発現レベルが増強することを発見した。また、オキシトシンを添加すると、オキシトシン受容体を高発現する中皮腫細胞株では増殖の促進が認められた。レンチウィルスを用いてオキシトシン受容体をノックダウンすると、細胞周期停止が誘導され、特にオキシトシン受容体の発現レベルが高い中皮腫細胞株において、顕著に細胞増殖が抑制された。さらに、複数のオキシトシン受容体阻害剤で濃度依存性に悪性中皮腫細胞株の増殖が抑制されることを発見した。 In vivoにおいては、皮下に中皮腫細胞株を移植したヌードマウスを用いて、オキシトシン受容体阻害剤(クリゴシバン)の経口投与で、抗腫瘍効果が認められることを突き止めた。投与経路及び投与量の解析についても検討を重ね、抗腫瘍効果を得るためには、1回60 mg/kgを隔日で合計10回の経口投与が必要であった。さらに、悪性中皮腫に対する標準化学療法薬であるシプラチン・ペメトレキセドとの併用効果についても検討を行い、in vitro/in vivo の双方の解析において、クリゴシバンとの相加・相乗効果が確認された。本研究により悪性中皮腫に対するオキシトシン受容体阻害剤の抗腫瘍効果を立証するとともに、これらの解析結果を、日本癌学会の機関誌であるCancer Scienceに報告した(Cancer Sci . 2021 Sep;112:3520-3532.)。また、2021年10月には、オキシトシン受容体阻害剤を用いた治療法を悪性中皮腫に対する新規の抗腫瘍療法として、特許取得のためのPCT出願を行った(出願番号:2020-180412)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ流行により、当初の計画より一時遅れはあったが、必要な資材購入が可能となったことで、解析は概ね順調に進んでいる。これまでの解析で、オキシトシン受容体をノックダウンした際の細胞増殖抑制のメカニズムについては、細胞周期G1期停止に起因することを突き止めた。さらに細胞周期が停止する原因については、cyclin dependent kinase 1・cyclin dependent kinase 2・Aurora kinase Aなど複数の細胞周期制御因子の発現が低下していることも発見した。これらの解析結果を基に、オキシトシン受容体を高発現する中皮腫細胞株を用いて、レンチウィルスでオキシトシン受容体を恒常的にノックダウンした後に、 LC-MS分析による網羅的なタンパク質の発現変動を解析することで、オキシトシン受容体の下流シグナルの同定を行う。最終的には、オキシトシン受容体阻害剤と下流のシグナル因子の中で、抗腫瘍効果の高い標的を選出して、治療開発に結び付ける方針である。 オキシトシン受容体阻害剤については、これまでに4剤の阻害剤(クリゴシバン、OT-Rアンタゴニスト1、L368,899塩酸塩、アトシバン)を用いて、同受容体を高発現する中皮腫株について細胞増殖抑制効果を解析した。すべての阻害剤で濃度依存性に細胞増殖抑制効果が確認され、薬剤のオキシトシン受容体に対する阻害定数と、IC-50に正の相関傾向が認められた。その中から最もIC-50が低かったクリゴシバンを用いて、in vivoでの解析に進んだ。今後は、オキシトシン受容体の発現レベルに応じた複数の株を用いて、他のオキシトシン受容体阻害剤についても細胞増殖抑制効果の追及を行うともに、他の薬剤との併用効果についても解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
オキシトシン受容体を高発現する中皮腫細胞株を用いて、レンチウィルスでオキシトシン受容体を恒常的にノックダウンした後に、LC-MS分析により、プロテオーム解析及びリン酸化プロテオーム解析を行い、網羅的なタンパク質の発現変動を解析する。変化率の大きい遺伝子・タンパク質を、分子生物学的なパスウェイ解析に使用されるソフトウェア (Pathway Commons、DAVID Functional Annotation Bioinformatics Microarray Analysis) を用いて解析し、オキシトシン受容体の下流で腫瘍増殖を促進するシグナル経路を同定する。同定された遺伝子・タンパク質レベルの変化をリアルタイムPCR法及びウェスタンブロット法を用いて確認するとともに、オキシトシン刺激及び同受容体阻害剤を添加後にも同定された因子の発現変化が一致しているかどうかを検証する。同定された下流分子に対しては、核酸や阻害剤を用いて、腫瘍の増殖抑制効果をin vitro/in vivoで解析し、オキシトシン受容体と下流のシグナル因子の中から、より抗腫瘍効果の高い標的を選出する。阻害剤については、詳細な投与量・投与経路・他剤との併用効果について解析を行うことで、悪性中皮腫に対する新規治療戦略の基盤を作る。 また、同定された下流因子については、TCGAのデータベース及び名古屋大学が保持する悪性中皮腫の組織検体を用いた免疫染色で解析を行い、予後への影響やオキシトシン受容体との発現レベルの関連についても追及する。
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