2022 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment, maintenance and perturbation of the skin regionalization by the positional information
Project/Area Number |
20H03706
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
藤原 裕展 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (20615744)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 領域特異性 / 細胞外マトリックス / 位置情報 / 皮膚 |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚の構造と機能の身体部位ごとの多様性は、生物の環境適応戦略にとって重要な役割を果たす。しかし、組織損傷後の修復・再生過程では、しばしばその領域性が失われ、一様な瘢痕等として不完全な修復がなされる。本研究では、明瞭な領域特異性を持つ皮膚が、発生過程でどのようにして部位ごとに異なる性状の皮膚を作り出すのか、そして組織修復の過程でなぜ領域性が失われ、それが回復しないのか、そのしくみを明らかにする。特に、領域特異性や位置情報(体の番地に例えられる)に深く関わる間充織細胞と細胞外マトリックス(ECM)の多様性に着目し、これらが器官の『位置情報システム』として機能するしくみに迫る。昨年度までに、マウス背部皮膚を用いて、皮膚のECMのmRNA発現と蛋白質の組織内空間情報を網羅した「Skin ECM atlas」を作成した。今年度は、毛乳頭周囲のECM環境を構築している基底膜分子のうち、特にインテグリンのリガンドとして機能するラミニンとの相互作用の分子基盤に着目して研究を推進した。まず初めに、ラミニンの異なるアイソフォームがヒト組織の毛乳頭周辺にどのような空間パターンで沈着しているかを免疫組織染色により調べたところ、α1鎖,α2鎖,α4鎖を含むラミニンが毛乳頭の個々の細胞を取り囲むように網目状に沈着している一方、α5鎖を含むラミニンは毛乳頭と毛包上皮の基底膜部に沈着しており、毛乳頭側に突起を伸ばしていることが明らかになった。毛乳頭細胞とこれらのラミニンとの相互作用を解析するために、各ラミニンα鎖を含むラミニンタンパク質の発現・精製システムを立ち上げた。これまでに、ヒトラミニン各鎖の完全長cDNAを発現ベクターにクローニングした。現在ヒト培養細胞にα鎖、β鎖、γ鎖を同時に導入することで、3本鎖を組んだ成熟型のラミニンとして細胞外に分泌されるかどうかを調べているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「Skin ECM atlas」の作成により、有毛皮膚を特徴づける毛乳頭周囲のECM環境が基底膜であることが分かった。この毛乳頭ニッチの特性が明らかになったことにより、このニッチが発生・再生過程でどの様に構築されるのか、また、瘢痕組織や老化組織ではこのニッチにどのような変化が生じるのか、毛乳頭が異なるニッチに晒されると、毛乳頭の性質や皮膚の構造と機能にどのような変化が現れるのかという問題に独自の視点でアプローチすることが可能となった。今年度の研究により、毛乳頭が接着基質として、複数タイプのラミニンを使っていることが示唆された。これらのラミニンと毛乳頭細胞との分子間相互作用を調べるには、異なるタイプのラミニンをタンパク質として精製し、その細胞との細胞表面受容体を介した相互作用の機構を解析することが有効である。そのために必要な、ヒトラミニン各鎖の完全長cDNAのクローニングには成功したが、その後細胞に導入しても3本鎖を組んだ成熟型のラミニンが細胞外に分泌されず、苦戦を強いられている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、ラミニンのin vitro発現システムのトラブルシューティングを行う。cDNAを発現ベクターにクローニングする際の5’UTRの長さ等を変更することで改善が見られるか検討する。同時に、最近は精製ラミニンの市販品も入手可能となっているので、その積極的な活用も視野に入れる。精製ラミニンが入手できれば、各ラミニンアイソフォームの毛乳頭細胞への接着誘導活性の強さやそれを仲介する受容体の同定を進める。さらに、ラミニンの精製品を培養基質として活用することで、これまで効果的な方法が確立されていない毛乳頭細胞のin vitro培養システムの確立を目指す。
|