2021 Fiscal Year Annual Research Report
造血幹細胞プログラムを標的とした難治性急性骨髄性白血病の分子基盤の解明
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20H03708
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
正本 庸介 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (30706974)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 急性骨髄性白血病 |
Outline of Annual Research Achievements |
MLL-ENL融合遺伝子をレトロウィルスでEVI1-GFPノックインマウスのHSCに導入してマウスAMLモデルを作成した。白血病幹細胞活性の高いL-GMP分画のうち、GFP陽性(HSC様AML細胞を含む)、GFP陰性(GMP様AML細胞)を回収し、RNA-seqにより遺伝子発現パターンを比較した。我々はGFP陽性分画が、①移植により悪性度の高いAMLを起こすこと、②化学療法後に残存すること、③予想に反して幹細胞活性が高くないこと、を明らかにしたが、RNA-seqのパスウェイ解析でもこれを支持する結果が得られた。すなわちGFP陽性分画では既知の白血病幹細胞維持に関わるNF-κB経路のほか、化学療法耐性関連および血球分化関連遺伝子が高発現していた。 ここで示したGFP陽性のHSC様AML細胞の性質は、AMLの難治化に直結すると考えられたため、HSC様AML細胞に特異的な遺伝子・遺伝子群を明らかにすることを試みた。我々はEVI1の転写標的を網羅的に明らかにするため、FLAGタグ付きEVI1をマウス造血細胞に導入して作成したAMLモデルマウスの細胞を用いて、RNA-seqを行って遺伝子発現が増加する遺伝子、抗FLAG抗体でChIP-seqを行ってAMLにおけるEVI1の結合部位を網羅的に明らかにした。この遺伝子リストと上記のRNA-seqで発現の変動した遺伝子群を比較することによって、ETS転写因子ファミリー転写因子ERGとサイクリン遺伝子を、HSC様AML細胞における特異的な発現遺伝子の候補として同定した。これらの遺伝子をノックダウンすることによって、MLL-ENL AMLモデルをin vitroおよびin vivoたで抑制することが明らかになった。網羅的遺伝子発現解析の結果を用いたパスウェイ解析により、特定のサイトカインシグナルの変動が示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HSC様AML細胞、GMP様AML細胞について、GFPの発現パターン、幹細胞活性などの細胞の性質に加えて、遺伝子発現パターンも個体間差が大きく、遺伝子発現プロフィールの解釈が難しいという問題に直面した。これらの細胞の表現型やin vitroおよびin vivoでの性質を記述するために解析を行う中で、これらの細胞がin vivoにおいては環境に応じて双方向性に変化しうることや、HSC様AML細胞はin vitroで培養すると正常HSCと同様、容易にその性質を失うことが明らかになり、当初の想定以上に可塑性が高いことが分かった。またこのAML細胞をCRISPRスクリーニングに用いるためにレンチウィルスおよび薬剤選択によりCas9およびdCas9の導入を試みた。ヒトAML細胞などでは導入が確認できたものの、マウスAML細胞においては薬剤選択後mRNAレベルでは発現が確認できるものの、タンパクレベルでのCas9/dCas9発現が確認できず、細胞種特異的な問題の可能性とウィルスバックボーンとの相性の問題の可能性が考えられた。ウィルスベクターを変更して再度Cas9の導入を試みている。 これらの制約から、HSC様AML細胞とGMP様AML細胞を比較するために行ったRNA-seqの結果の絞り込みを、このモデルを用いて行うのではなく、別のAMLモデルを用いたEVI1の下流標的に関する網羅的解析の結果と照合することによって、標的を絞り込むことを試みた。これらの標的の一部についてノックダウンを用いた検証によって機能的に重要であることを示すことができたので、当初の計画とは異なるものの、計画は概ね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
HSC様AML細胞をin vitroで培養すると可逆的にGMP様AML細胞に変化することが明らかになった。そこでHSC様AML細胞の発生・維持に必要な因子を明らかにするために、GMP様AML細胞に現在とはベクターバックボーンを変更したレンチウィルスを用いてdCas9を導入した後にCRISPR活性化ライブラリーを導入し、GFP陽性および化学療法抵抗性でスクリーニングした細胞に対して次世代シーケンサーを用いて、HSC様AML細胞への変化および化学療法抵抗性を獲得するような遺伝子を検索する。また現在候補遺伝子として注目している遺伝子の導入後に同様の解析を行い、HSC様AML細胞の特徴がどの程度再現できるかを観察する。 網羅的遺伝子発現解析の結果を用いたパスウェイ解析を用いて、HSC様AML細胞で候補遺伝子をノックダウンした時に特定のサイトカインシグナルの活性が変動することが示唆されている。このパスウェイのリガンド・受容体・シグナル伝達分子のノックアウトマウスを用いてAMLモデルを作製し、AMLの発症や治療抵抗性に与える影響を解析し、難治性AML治療標的としての意義を検証する。 これらの結果を統合することで、HSC様AML細胞に特異的な治療標的の候補を見出す。 またこれらの網羅的遺伝子発現解析の結果からHSC様AML細胞で高発現する細胞表面抗原、ピックアップされたパスウェイに関連する細胞表面抗原を抽出し、そのリストからHSC様AML細胞を濃縮するための表面抗原を明らかにする。これらの結果を統合することで、HSC様AML細胞に特異的な治療標的の候補を見出し、マウスモデルを用いて治療標的としての意義を検証する。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Heterozygous Dnmt3a R878C induces expansion of quiescent hematopoietic stem cell pool.2022
Author(s)
Higo T, Suzuki Y, Sato M, Koya J, Mizuno H, Miyauchi M, Masamoto Y, Kataoka K, Sumitomo Y, Tsuruta-Kishino T, Sato T, Kurokawa M.
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Journal Title
Experimental Hematology
Volume: Epub
Pages: Epub
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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