2020 Fiscal Year Annual Research Report
シェルタリン因子による造血微小環境(ニッチ)の機能制御メカニズムの解明
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20H03711
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
新井 文用 九州大学, 医学研究院, 教授 (90365403)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細川 健太郎 九州大学, 医学研究院, 講師 (90569584)
八尾 尚幸 九州大学, 医学研究院, 助教 (90835282)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞 / ニッチ / シェルタリン因子 / Pot1a |
Outline of Annual Research Achievements |
間葉系幹細胞(MSC)は、造血幹細胞(HSC)のニッチ細胞として重要な働きをしている。本研究では、テロメア保護に働くシェルタリン因子(POT1、TPP1、TIN2、TRF1、TRF2、RAP1から構成される)に着目し、MSCのニッチ機能の維持と老化制御に対する働きを明らかにすることを目的として研究を進めている。 1. MSCの未分化性維持におけるPOT1の機能解析:Pot1aコンディショナルノックアウト(KO)マウス(Pot1afl/fl)とNG2-Creマウス(細動脈周囲のMSCでCreを発現)あるいはLeptin receptor (LepR)-Creマウス(より広範な血管周囲のMSCでCreを発現)を交配することにより、MSC特異的にPot1aを欠失させたマウスを作製し、解析を行った。NG2-Cre; Pot1afl/flマウスでは、骨髄ストローマ細胞数の減少、骨芽細胞分化に関連した遺伝子発現の異常および骨の発育不全がみられた。一方、LepR-Cre; Pot1afl/flマウスでは、骨の発育異常はなく、ストローマ細胞中のMSCが減少していた。ROS産生とDNAダメージ応答に関しては、両方のKOマウスで亢進していることが分かった。以上の結果から、Pot1aはMSCの維持に重要な働きをもつことが考えられた。 2. MSCのニッチ機能の制御におけるPOT1の機能:NG2-Cre; Pot1afl/flマウスとLepR-Cre; Pot1afl/flマウスにおいて、ともに造血幹・前駆細胞の存在比率が増加することが分かった。 3. POT1によるMSCの老化制御:老化関連遺伝子の発現変動を解析するため、Pot1aKOマウスMSCのRNA-Seq解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにNG2-Cre; Pot1afl/flマウスとLepR-Cre; Pot1afl/flマウスについて解析を進めてきた。Pot1aのKOにより、骨髄ストローマ細胞数、MSC数の減少がみられたことから、MSCの自己複製能の維持にPot1aが重要な働きをしていることが考えられた。分化に関しては、NG2-Cre; Pot1afl/flマウスで骨形成の異常がみられたが、LepR-Cre; Pot1afl/flマウスには異常が見られなかったことから、さらに詳細な検討が必要であると考えられた。MSCの代謝に対するPot1aの作用については、NG2-Cre; Pot1afl/flマウスとLepR-Cre; Pot1afl/flマウスで、ともに代謝の亢進とROS産生の亢進がみられた。これまでにPot1aがHSCの代謝制御に働くことを明らかにしてきたがHosokawa et al. Nat Commun 2017)、本研究の結果から、Pot1aはMSCでも代謝の制御に関わることを明らかにすることができている。 MSCは主要なニッチ細胞であることから、Pot1aのKOがHSC維持に与える影響を解析し、その結果として、NG2-Cre; Pot1afl/flとLepR-Cre; Pot1afl/flでは、ともにHSCの割合の増加、細胞周期の亢進と静止期HSCが減少することを見いだした。これらの結果から、Pot1aの欠損によりMSCのニッチ機能が低下し、二次的にHSCの静止状態が低下したと考えられる。 MSCの老化抑制におけるPot1aの機能の解明については、Pot1a KOマウスのRNA-Seq解析およびシングルセルRNA-Seqにより、老化関連遺伝子の発現変動の解析を進めてることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. MSCの未分化性維持におけるPOT1の機能:①NG2-Cre; Pot1afl/flとLepR-Cre; Pot1afl/flのMSCの骨・脂肪・軟骨への分化能を解析し、MSCの分化に対するPot1aの機能を明らかにする。②POT1は転写制御やTIN2の細胞内局在制御を介したメカニズムによってMSCの代謝制御に関与すると考えられる。そこで、Pot1a KO MSCのRNA-Seq、Pot1a導入MSCのChIP-Seqを行い、代謝制御に関連するPot1aの標的分子の同定を進める。③別のシェルタリン因子TIN2はミトコンドリアに移行するとROS産生を促進する (Chen et al. Cancer Cell 2009)。そこで、Pot1a KO MSCにおいてTIN2の細胞内局在の変動がないかを明らかにする。 2. MSCのニッチ機能の制御におけるPOT1の機能:NG2-Cre; Pot1afl/flおよびLepR-Cre; Pot1afl/flマウスのHSCについて骨髄再構築能の解析を行う。さらに、KOマウスをレシピエントマウスとして野性型マウスHSCの移植を行い(逆移植)、長期再構築能を解析する。これらの解析によって、ニッチ側(MSC)でのPot1a欠損がHSCの自己複製と分化に及ぼす影響を明らかにする。 3. POT1によるMSCの老化制御:若齢マウスMSC、老化マウスMSCのシングルセルRNA-Seqデータを人工神経回路網 (ANN) に学習させ、この学習済みANNによってPot1a KO MSCのRNA-Seqデータを解析することで、Pot1a KO MSCが老化に関連したフェノタイプを示すのかを明らかにする。 4. シェルタリン因子の導入による老化MSCの機能回復を検討するため、シェルタリン因子群の細胞膜透過性タンパクの作製を進める。
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Research Products
(9 results)