2020 Fiscal Year Annual Research Report
高度STI耐性(STI-R)HIV発現機序の解明と新規抗STI-R-HIV剤開発
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20H03727
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
満屋 裕明 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究所長 (20136724)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | HIV-1 / インテグラーゼ阻害剤 / 薬剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Raltegravir(RAL)耐性HIV(HIVRALR)を出発株として試験管内で誘導した高度dolutegravir(DTG)耐性変異体に認められたF121Vは、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)耐性関連変異として未報告のため、更にDTG耐性を6回繰返しF121Vの出現頻度を確認した。6HIVRALRsは高濃度のDTG存在下でも増殖可能となり、4DTG耐性HIVsがF121Vを獲得、一方でF121Vを含まない2つの変異体(V72I/L74M/V79I)も見られた。感受性試験の結果、F121VにL74I/Mが加わると耐性度が高く、一方F121Vを含まないHIVは耐性度が低いことから、F121VがDTG耐性に大きく関与していることが明らかになった。またbictegravir(BIC)はDTGに比し、感受性の低下が小さいことから、BICをベースとした新規阻害剤のデザインが有効である可能性が示唆された。 同定したアミノ酸変異(V72I, L74I/M, L79I, F121V)を単一に導入した感染性HIVクローンを作成し、INSTIs感受性を調べた結果、いずれのHIVクローンも耐性を獲得しないことが分かった。またF121Vを単独で導入したクローンの増殖能は完全に失われることが分かった。 Cryo-EMによるHIV-1及びSIVのインタソーム(HIV-1インテグラーゼ、ウイルスDNA及び宿主DNAから成る複合体)構造を元にして、活性部位近傍の構造を分子シミュレーションにより解析した。F121は活性部位を構成する3アミノ酸のうち、2つのアミノ酸と直接に相互作用することが明らかになった。DTGを含む治療に失敗したHIV感染者に比較的高頻度に見られるT97Aは、L74及びF121と直接相互作用しており、L74-T97-F121でのアミノ酸置換がどう活性部位に影響するか今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RAL及びDTG耐性HIVより同定したアミノ酸変異を、単一及び複数個導入した感染性組換えHIV-1クローンを作成するにあたり、当初の計画に沿って以下の方法を検討した。(1)デザインしたプライマーを用いて、HIVインテグラーゼ遺伝子が組み込まれたプラスミドにPCRにてデザインした塩基置換を導入する。(2)塩基置換を導入したプラスミド及びHIV-1全長が組み込まれたプラスミドを鋳型にし、PCRでフラグメントDNAを作成、in-fusion法により2つのフラグメントを結合させたプラスミドDNAを作成する。(3)作成したプラスミドを293T細胞にトランスフェクションし、培養上清中にウイルスの産生を確認する。(1)-(3)より得られたウイルスを用いて、感受性試験等のウイルス学的解析が可能となった。 以前はHIV-1と相同性が低いprototype foamy virusのインテグラーゼの構造データがINSTIsとの結合解析等に用いられていたが、cryo-EMによるHIV-1及び相同性が高いSIVのインタソーム構造が最近報告されたことから、より詳細なインテグラーゼの酵素活性部位近傍の解析及び正確な阻害剤と活性部位との結合態様の解析が可能となった。本プログラムではそうした新知見を元に、ウイルス学的解析により得られたデータを裏付ける構造解析データが分子シミュレーションにより得られており、INSTIs耐性メカニズムの解明に必要となる構造データが順調に集積されつつある。 DTG耐性HIVインテグラーゼ(活性部位を含むcatalytic core domainのみ)の結晶構造解析のために、可溶化を促進するアミノ酸置換をインテグラーゼ蛋白質内に導入し、大腸菌内で発現後、結晶化に必要となる濃度の蛋白質が得られた。当初の計画通り精製及び結晶化の方法を種々に検討し、顕微鏡下で観察可能な結晶が得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
INSTIs耐性メカニズムの解明を推進するウイルス学的解析:野生株を用いた試験管内DTG耐性誘導は未報告であったが、本研究で初めてRAL耐性HIV(G140S/Q148R)を用いて、速やかにDTG耐性を誘導し得た。148番のアミノ酸は、酵素活性部位のアミノ酸と直接相互作用しており、そのアミノ酸置換により、直接に活性部位及び活性部位と阻害剤との結合に影響するとされている。一方、これまでにRALを含む第一世代INSTIsによる治療を失敗したHIV感染者から複数種のアミノ酸置換が140番と148番に起こることが報告されている。(1)これまでによく報告されているG140S/Q148Hを含むHIVクローンを作成しDTG耐性誘導を試みることで、本研究で注目しているL74-T97-F121にアミノ酸置換が起こるかどうかを確認する予定である。(2)またL74I、T97A、L74I/F121Vを導入したHIVクローン(F121Vを単独で有するHIVクローンは増殖性を有しないが、L74I/F121Vは細胞内で増殖可能)を用いてDTG耐性誘導を試みることにより、耐性発現におけるG140-Q148とL74-T97-F121との関連性が明確になると期待される。 新規INSTIsデザインを推進する方策:試験管内で誘導された耐性変異体はINSTIs耐性としては限定的であるため、INSTIsによる治療により耐性となった、INSTIs耐性に直接関係の無いと思われるpolymorphismsを含む多様なアミノ酸変異を有するHIV-1感染者由来の変異体を用いることで、米国FDAに認可されている5種のINSTIsの化学構造とHIV変異体に対する活性との相関関係が得られる可能性があり、また分子シミュレーションによる構造解析を併せて行うことにより、より強力な活性を有する化合物のデザインを促進することが期待される。
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