2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H03729
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
稲垣 毅 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (10507825)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エピゲノム / ヒストン修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞内代謝環境を感知してエピゲノムが書き換わり、細胞の性質や分化を制御する機構の解明を目指すものである。ヒストン脱メチル化酵素やDNA脱メチル化酵素、RNA脱メチル化酵素といった一連のエピゲノム関連酵素の補酵素として鉄が必須であるため、細胞内の代謝環境のセンサーとして鉄濃度に着目して研究を進めた。本年度は、鉄キレート剤であるデフェロキサミン(DFO)の処理によって細胞内鉄を枯渇化した条件において、遺伝子発現変化、DNAメチル化変化、ヒストンメチル化修飾変化を対象とする次世代シーケンサー解析を実施し、統合的な解析に取り組んだ。RNAシーケンス解析の結果、脂肪細胞分化過程において鉄キレート剤処理によって抑制される遺伝子群のパスウェイ解析を行った結果、脂肪細胞分化に必須のPPARシグナルが認められた。さらにDNAメチローム解析を実施し、得られた結果をトランスクリプトーム解析の結果と統合して検討した。その結果、脂肪細胞分化におけるDNAのメチル化変化が限定的な領域に認められ、その変化は脱メチル化が優位であることが見出された。さらに、トランスクリプトーム解析の結果と統合して検討したところ、DFO処理によってDNAのメチル化が抑制される領域の近傍遺伝子の上流制御因子としてPPARγが見出された。ヒストンメチル化修飾に対するChIPシーケンス解析とトランスクリプトーム解析の統合的な解析においては、分化に伴って脱メチル化する領域のうち、DFOによってその脱メチル化が抑制される領域(すなわち、保たれる領域)において、脂肪細胞分化関連遺伝子との関連が深く、その傾向はH3K9のメチル化について強く認められた。以上の結果から、脂肪細胞分過程の限定期間における細胞内鉄濃度変化が、DNAメチル化やヒストンメチル化修飾変化をともなって遺伝子発現制御に関与することをゲノムワイドに示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた遺伝子発現変化、DNAメチル化変化、ヒストンメチル化修飾変化を対象とする次世代シーケンサー(NGS)解析を実施し、統合的解析を進めた。マルチオミクスNGSデータを統合的に解析することは挑戦的な取り組みであったが、結果としてDFO処理によって変化するエピゲノム修飾と遺伝子発現変化の関係性を明らかにできた点において、特筆すべき成果であったと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果、脂肪細胞分化過程におけるDNAメチル化変化、ヒストンメチル化修飾変化に鉄が与える影響が認められたため、次年度以降は責任酵素の同定に取り組む。さらに細胞内鉄の貯蔵や輸送といった細胞内鉄動態変化にともなう脂肪細胞分化の機構を解明する。この結果、脂肪細胞分化過程における細胞内の鉄やαケトグルタル酸を指標とする細胞内代謝環境感知のエピゲノム制御機構を解明し、「環境がエピゲノムを書き換えて細胞分化を制御する一機構」の提示を目指す。
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