2020 Fiscal Year Annual Research Report
がんサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存療法の革新的な技術開発
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20H03830
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
鈴木 直 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (90246356)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 小児・AYA世代がん / 妊孕性温存 / 卵巣毒性 / 卵巣組織凍結・卵巣移植 / 精巣毒性 / 精巣組織凍結・精巣移植 / 抗腫瘍薬 / 子宮毒性 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん治療の集約化により治療成績は向上し、がん治療後に寛解したがん患者が増加しつつある。がんの統計(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html)によると、1年間に約23,500人の小児及び思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult: AYA)世代(0-39歳)患者が新規にがんの診断を受けていると報告されている。一部の化学療法や放射線療法などの性腺毒性を惹起するがん治療が行われた場合、小児・AYA世代がん患者の妊孕性(生殖機能)が喪失する場合がある。2004年に欧州で若年女性がん患者の卵巣組織凍結・移植による世界初の生児獲得の報告がブレークスルーとなり、欧米では「がん・生殖医療」に関する概念が広がった。がん治療医と生殖医療を専門とする医師との密な医療連携のもと、何よりもがん治療が優先される中で、がん治療開始前に患者に対して、1.妊孕性喪失の可能性と、2.妊孕性温存療法等を提示されるようになった。我々は、2006年に霊長類を用いた新しい卵巣組織凍結保存法を開発し、世界初の生児獲得に成功した。現在、生児獲得に至る小児・AYA世代がんサバイバー数は増加傾向にあるが、本領域は対象ががん患者であることから「安全性」と「有効性」を志向して、がん・生殖医療の根幹をなす妊孕性温存療法で用いられる技術は本技術のさらなる技術革新が急務となっている。そこで、さらなる技術革新を目指した、がん・生殖医療の診療の場に展開できる技術開発を目的として研究を進めている。6つの領域をターゲットとして独創的な本研究によって得られる成果は、がん患者の福音に繋がると確信している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.白血病患者における卵巣内のMRD(微小残存腫瘍)と卵巣移植の実現可能性を検証する研究: DBA/2マウスに白血病細胞を経腹的、経尾的に移植し、白血病細胞生着期間、腫瘍播種状況を解析し、MRDモデルマウスの作成に着手した。MRDモデルマウスの卵巣組織や他臓器に生着した白血病細胞を定量するため、蛍光物質のVenusを白血病細胞に感染させることで定量を可能とした。 2. 卵巣組織凍結保存拠点化に向けた研究:卵巣輸送に関わるデバイスの開発を志向して、 既に試作済みの本デバイスを用いて、マウス及びウシ卵巣を用い、卵巣組織内のアポトーシスの有無を検証する実験を行なった。一方、共同研究者:米国のOktay教授から得たヒト卵巣組織を用いた3つの卵巣組織凍結による卵巣組織によるRNAシークエンスにて検証する実験データ得た。 3.卵巣移植の至適な技術開発に向けた研究:マウスを用いた大網、卵巣(同所)並びに子宮への移植実験を行った。大網に関しては、マウスの場合大変薄い組織であり膵臓が近傍に存在することから、良い評価を行うことが厳しい結果が得られた。そこで、マウスより大きな動物を用いて(ラット)大網への移植実験を進めている。一方、卵巣と子宮内移植に関しては、基礎実験の結果良好な結果を得ることができた。 4.新しい精巣組織凍結法の開発:マウス精巣を用いた精巣組織ガラス化凍結法の組織学的検討を行った。その結果、卵巣組織で用いる耐凍剤濃度ではマウス精巣に対するダメージが大きいことが明らかになった。一方、精巣組織移植実験の結果、肉眼的に移植が確認された。 5. 抗腫瘍薬の精巣毒性の評価:チロシンキナーゼ阻害剤の精巣毒性を検証する研究計画を立案した。 6. 抗腫瘍薬の子宮毒性の評価:シクロホスファミド(Cy)のマウス子宮に与える影響を検証した結果、Cyの子宮に対する直接的な作用が示唆される結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.白血病患者における卵巣内のMRD(微小残存腫瘍)と卵巣移植の実現可能性を検証する研究: MRDモデルマウスの着手が順調に進んでいる。しかしながら、モデルマウスの白血病発症期間が予想より長い結果であったことから、他の細胞株を用いて研究を推進する。 2. 卵巣組織凍結保存拠点化に向けた研究:卵巣運搬に関するデバイス作成に関しては順調に進んでいることから、引き続き令和2年度同様に研究を推進させる。一方、RNAシークエンスデータの解析が、研究のさらなる推進における重要な位置付けになることから、早急に解析を進めていく。 3.卵巣移植の至適な技術開発に向けた研究:マウスより大きな動物を用いて(ラット)大網への移植実験を継続し研究を推進させる。一方、卵巣と子宮内移植に関しては、基礎実験の結果良好な結果を得ることができたことから、令和2年度同様にさらに研究を推進させる。 4.新しい精巣組織凍結法の開発:マウスでの実験結果がヒトへ外挿することができる困難である可能性が予想されたため、今後はカニクイザルの精巣を用いた研究に着手し研究を推進させる。一方、精巣移植実験に関しては、基礎実験にて良好な結果が得られたことから令和2年度同様にさらに研究を推進させる。 5. 抗腫瘍薬の精巣毒性の評価:チロシンキナーゼ阻害剤(3種類)の精巣毒性を検証する研究に着手し研究を推進させる。 6. 抗腫瘍薬の子宮毒性の評価:令和2年度の研究成果を検証し、論文化に進む。
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