2020 Fiscal Year Annual Research Report
老化と関連疾患における免疫恒常性維持に対する分子状水素の作用とその分子機構解明
Project/Area Number |
20H04136
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
大澤 郁朗 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (30343586)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 泰典 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (30515888)
池谷 真澄 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60644359)
伊藤 雅史 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (80393114)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 分子状水素 / 培養細胞 / リピドーム / メタボローム / 腸管免疫系 / 大動脈解離 / 水素ガス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はH2による健康長寿促進を目指して、三つの問いを解明するための包括的研究である。第一の目的はH2のプライマリーターゲット探索にある。ガス分子のアナロジーから脂質に着目し、その変化が細胞膜や細胞内輸送、ミトコンドリア機能などに及ぼす影響を培養細胞と動物モデルで示す。第二の目的はH2による特定臓器と細胞の制御が過剰免疫応答による全身性の炎症と免疫老化の抑制をもたらすことを個体レベルで示すことで、腸管免疫系におけるT細胞やマクロファージのH2による恒常性維持と、脾臓などへの波及効果を示す。第三の目的は高齢者を対象にしたH2ガス吸入療法の開発で、急性大動脈解離の非手術例患者を対象にH2ガス吸引の有効性について肺水腫などを指標に評価する。 初年度は培養細胞系を中心にリピドームとメタボローム解析から、神経芽細胞SH-SY5Yを水素存在下で培養すると、1時間後にはカルジオリピンなどの特定のリン脂質が上昇し、同時にエネルギー代謝経路が広く抑制されることが判明した。この変化は一過的であり、その間にグルタチオンの低下など酸化ストレスの上昇が認められた。これがミトホルミシスなどの細胞防御機構を誘導することがH2の作用機序の一つであることを示した。また、動物モデルではデキストラン硫酸塩投与の大腸炎モデルマウスの解析から、水素水投与が小腸パイエル板での制御性T細胞減少を抑制することが判明した。次年度以降、水素水の飲用が小腸免疫系に作用するメカニズムを解析していく。さらに急性大動脈解離B型患者への水素ガス吸引療法に関する安全性試験のための準備が整ったため、順次試験を開始する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初目標である三つの問いを解明する研究は、第一のH2のプライマリーターゲット探索及び第二のH2による過剰免疫応答抑制メカニズム解明については順調に進展しているが、第三の臨床応用については新型コロナ流行の影響を受けて、やや開始が遅れている。 第一の研究では、培養細胞系を中心にリピドームとメタボローム解析から、神経芽細胞SH-SY5Yを水素存在下で培養すると、1時間後にはカルジオリピンなどの特定のリン脂質が上昇し、同時にエネルギー代謝経路が広く抑制されることが判明した。この変化は一過的であり、その間にグルタチオンの低下など酸化ストレスの上昇が認められた。これがミトホルミシスなどの細胞防御機構を誘導することがH2の作用機序の一つであることを示しすなど順調に推移している。 第二の研究については、デキストラン硫酸塩投与の大腸炎モデルマウスで、水素水を1日1回投与するだけで病態が緩和された。デキストラン硫酸塩投与は小腸パイエル板でFoxp3の発現を減少し、Il6の発現を上昇させる。水素水の飲用はこれを抑制したことから、IL-6の抑制によって制御性T細胞の恒常性が維持されたものと考えられる。そのメカニズムについて、さらに解析を続ける。 第三の研究については、倫理委員会などの諸手続きが完了し、水素ガス吸引療法に必要な混合ガス吸入装置、水素ガス濃度計、安全装置などのセットが完了して、臨床研究が可能となるのを待っている状態である。
|
Strategy for Future Research Activity |
第一のH2のプライマリーターゲット探索については、細胞レベルの研究については、研究成果をまとめ、さらに動物モデルでの可能性について検証を進める。第二のH2による過剰免疫応答抑制メカニズム解明については卵白アルブミンの取り込みに対する水素水飲用の影響を解析することで、腸管免疫応答の上流に着目した研究を進める。また、第三の臨床応用については、いつでも患者受け入れ可能な体制を維持する。
|