2021 Fiscal Year Annual Research Report
障害から超高速に自律復旧するナノスケールネットワークの設計
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20H04140
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
首藤 裕一 法政大学, 情報科学部, 准教授 (50643665)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大下 福仁 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (20362650)
泉 泰介 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (20432461)
増澤 利光 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (50199692)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 個体群プロトコル / リーダ選挙 / 自己安定 / 緩安定 / ゆらぎ / 故障耐性 / 頑健性 / ナノスケールネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、膨大な数の極小デバイスで構成されるナノスケールネットワークにおいて、一部デバイスの物理的な故障などの障害によって不安定な状態に陥ったネットワークを高速に復旧するための基盤技術の確立を目的とする。極小デバイス群で構成されるナノスケールネットワークにおいては障害への耐性が強く求められる一方で、障害発生時に自律復旧を行う頑健なナノスケールネットワークの設計は極めて困難であることが知られており、実用化の障壁となっている。本研究は、障害が発生していない平常時にもわずかな確率で異常状態に陥る「ゆらぎ」を許容することをアプローチ として、ナノスケールネットワークにおいても超高速かつ頑健なアルゴリズム群を実現するための基盤技術を確立することを目指す。本研究によって、ナノスケールネットワークの障害耐性を汎用的かつ著しく高めることが期待できる.
初年度においては、幸いにも、本研究課題の中核をなす目標を達成することができた。具体的には、ナノスケールネットワークを表現する計算モデルのひとつである個体群プロトコルモデルにおいて、最も基本的かつ重要な問題のひとつであるリーダ選挙問題を超高速に(i.e., 対数時間で)解く頑健なアルゴリズムの設計に成功した。一方で、このアルゴリズムは、ネットワークを構成するデバイス間の通信発生パターンが理想的な確率モデルにもとづくものであることを仮定していた。今年度(令和3年度)は、頑健性は持たないものの、通信発生パターンが理想的な確率モデルから大きく乖離した場合にも高速にリーダ選挙問題を解くアルゴリズムの設計に成功した。これは、上に述べた頑健なアルゴリズムの適用領域を大きく拡げることにつながり、ナノスケールネットワークの頑健性向上に寄与する。他にも、ネットワークの形状が円環状であるときに理論上最速かつ頑健にリーダ選挙問題を解くアルゴリズムの考案に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載の通り、前年度に設計した超高速かつ頑健なアルゴリズムの適用領域を拡大するため、デバイス間通信の発生パターンが理想的な確率モデルと大きく乖離する場合にも高速にリーダ選挙問題を解くアルゴリズムを提案することができた。前年度の研究成果(頑健かつ超高速なアルゴリズム)とこの結果(通信パターンの影響を受けづらい高速アルゴリズム)はそれぞれ別の論文として、今年度に分散計算理論の最難関会議に採択され、発表することができた。加えて、円環状に連結したネットワークにおいて頑健でかつ高速・省メモリなアルゴリズムの設計に成功した。これは、昨年度発表した時間最適なアルゴリズムの空間計算量(個々のデバイスがアルゴリズム実行にあたり必要とするメモリ量)をO(log n)ビットからO(log log n)ビットに劇的に改善するものである。ナノスケールネットワークでは個々のデバイスの計算資源は制限されると考えられるので、この空間計算量の改善は工学的意義が大きい。 全体として、ナノスケールネットワークおよび頑健な分散アルリズム、移動体計算など本研究に密接に関連する今年度(令和3年度)研究業績としては、査読付き国際会議5件、学術論文誌4件の採択・採録を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、これまでに得られた研究成果を基盤として、ナノスケールネットワークのさらなる頑健化を試みる。具体的には、研究計画書に記載したとおり、以下の2つの研究目標に取り組む。 ・(i) デバイス間通信の発生パターンが理想的なモデルと乖離したときにアルゴリズムの頑健性および高速性に与える影響の解明 ・(ii)(様々な問題を解く)頑健でないアルゴリズムを頑健なアルゴリズムに変換する緩安定コンパイラの設計 (i)については、今年度の研究で大きな知見を得た。すなわち、初年度に考案した超高速かつ頑健なアルゴリズムは、通信発生パターンが理想的な確率モデルから大きく乖離すると高速性・頑健性ともに致命的に低下してしまうこと、および、そのような乖離が生じたときにも(頑健性は持たないものの)高速にリーダ選挙問題を解くアルゴリズムが存在することを明らかにした。令和4年度では、今年度に得られた技術を用いて、乖離が生じる環境においても頑健かつ高速にリーダ選挙問題を解くアルゴリズムの設計に取り組む。
(ii)については、当初の予定では令和3年度に取り組むつもりであったが、JAISTとの共同研究の関係で(i)に関する研究が大幅に進んだので、(i)を優先して前倒しで遂行し、令和3年度では保留する形となった。(ii)も重要な研究目標であるので、(i)と並行して令和4年度に取り組む予定である。
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