2020 Fiscal Year Annual Research Report
深海に広がるマンガン酸化鉱物の種「微小マンガン粒」の生成・保持機構の解明
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20H04308
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
浦本 豪一郎 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 講師 (70612901)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 微小マンガン粒 / 遠洋性堆積物 / マンガン鉱床 / 温室地球 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,申請者らの研究で発見し、遠洋域の深海底およびその地下に広く存在するマンガン鉱物の初生物質と考えられる「微小マンガン粒」の生成プロセスや生成・保持環境の特徴を明らかにすることを目的に研究を進めている. 今年度は,海洋調査による試料取得が困難となったことから,高知県内の白亜紀中期に形成した四万十帯北帯の遠洋性赤色チャート優勢の地層中に存在する鉄マンガン酸化物層を調査・採取試料の分析を進めた.白亜紀中期は温暖な環境であり,赤道-極域の気温差縮小,海洋循環の停滞や,活発な基礎生産に伴った有機物の大量生成・埋没に伴う深層水の無酸素化が断続的に発生し,海洋における鉄マンガン酸化物の形成環境が限られていた可能性が指摘されている.ただし,現状の知見は比較的浅海の堆積相の研究結果に基づくものであり,当時の最大規模の海域だった太平洋地域からの知見は少ない. 四万十帯北帯の地層に含まれるマンガン鉱床は熱水から沈殿したことを示唆されているが,高精度の組織解析から形成プロセスの詳細について制約を与えるべく,電子顕微鏡による組織観察と,レーザーICP質量分析装置を用いた元素分析を行った.その結果,肉眼観察では黒色塊状に見えたマンガン鉱石内部に微小マンガン粒の存在を見出すと共に,地質構造として微細な縞状構造を見出し,更に元素組成においても縞状構造に対応した変動が認められた.縞状構造は金属成分と二酸化ケイ素などの軽元素成分の量的変動を表しており,また,金属成分の変動から,熱水の影響が刻々と変化することで鉱床が形成したことが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は,海底調査の中止や所属機関・外部機関における試料調製・試料分析が実施できない状態が長期に続き(特に年度前半)、試料確保においては,年度後半に研究状況の好転した時期に,高知県内に存在するマンガン鉱床の調査や,試料保管施設や研究協力者に試料提供を依頼し,新規試料の確保に努めた.一方,外部機関で実施できなくなった試料調製環境を,所属機関に整備するため,研究時間の多くを割き,年度終盤に今年度の目的とした装置の設置を完了し,試料処理を効率することができた.また外部機関における試料分析においては,年度後半からリモート分析の実施が可能となった.年度後半からの研究状況が改善したことを踏まえて調査等を進め,新規試料である陸上マンガン鉱床の試料分析により,温室時代の白亜紀における深海鉱物資源の生成と海底環境の関係について新たな知見を得ることができた. しかしながら,今年度前半において実験を進めることができない状態が長く続いた影響が大きく,全体計画から考慮すると,進捗はやや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,実験室における試料の微細加工環境の整備を進めると共に,試料分析においては,海洋におけるマンガン鉱物生成において重要と考えられる陸から海洋へのマンガン供給プロセスの地質学的な時間スケールでの変動から,微小マンガン粒の生成について検討を行う. 特に,試料処理では前年度までに整備した装置と合わせて,超薄切・微細加工の前処理を可能とすることで,これまでの放射光実験で光還元反応の発生などによって困難だった微小マンガン粒の化学状態解析を高い精度で実施する. これによって試料に含まれるマンガン鉱物の成因を適切に評価することで,様々な地域・海域の試料の分析を進め,(1)地球温暖化が極度に進行した白亜紀中期の深海域におけるマンガン鉱物の生成や(2)新生代の氷期ー間氷期の気候変動に伴うマンガン鉱物の生成の変動について検討を行う.
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