2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストンH2AXによる遺伝子発現制御機構と新規ゲノム安定性機構ネットワークの解明
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20H04331
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中村 麻子 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (70609601)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | DNA損傷 / H2AX / 遺伝子発現制御 / 相同組み換え修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA二本鎖切断修復において最も重要な役割を有するタンパク質の一つであるヒストンH2AXが、DNA損傷修復における足場的機能だけではなく、クロマチン制御による遺伝子発現制御機能も有することを示唆するデータが近年報告された。そこで我々は先行研究として、H2AX欠損細胞における遺伝子発現レベルの変化を、RNAシークエンスによって網羅的に解析した。その結果、驚くべきことに、DNA損傷の相同組み換え修復に関与する遺伝子の発現が有意に上昇していることが明らかとなった。さらに、これら修復関連遺伝子の発現制御を行う候補転写因子として、上皮間葉転換経路の転写因子などが同定された。そこで、本研究計画ではH2AXによる遺伝子発現制御を解明することを最終目的として、H2AXタンパク質のDNA損傷修復機構における新しい分子機能を明らかにし、DNA損傷修復経路と上皮間葉転換経路という発がんにおける重要な経路をつなぎ合わせる新しい分子ネットワークの存在を明らかにする。2021年度は以下に掲げる研究項目を実施し成果を得た。 【H2AXによって発現制御をうける相同組み換え関連タンパク質の明確化】 H2AX欠損のヒト細胞およびマウス細胞において遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで発現低下するタンパク質を同定した。さらにそれらの遺伝子プロモーター領域のクロマチン構造についてクロマチン免疫沈降法をもとに検討した結果、いずれのプロモーター領域もH2AX欠損細胞でメチル化ヒストンレベルが低く検出された。このことは、H2AX依存的な相同組み換え修復関連タンパク質の発現がクロマチン制御を介して行われていることを示す結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの予備的な研究において、H2AX野生型およびH2AX欠損型のマウス胎児線維芽細胞のmRNA量をRNAシーケンスで網羅的に解析したところ、DSB修復経路の一つである相同組み換え修復に関連する遺伝子の発現がH2AX欠損によって上昇することが明らかになった。そこで、その詳細な発現制御メカニズムおよび発現制御の生物学的意義を明確にすることを目的に本研究を遂行した結果、特定の相同組み換え修復に関わるタンパク質の発現制御がH2AXによって制御されていることを明らかとした。またその発現制御はプロモーター領域のヒストン修飾制御を介していることを明らかとした。ゲノム安定性に深く関与する相同組み換え修復関連タンパク質の発現制御が、DNA損傷修復における足場的な役割を持つだけだと考えられていたH2AXに依存して行われていることを明確に示した本研究成果の意義は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
H2AX欠損によって発現低下する相同組み換え修復タンパク質の同定を行うことができたことから、今後はこれらの因子の発現制御メカニズムおよびその生物学的意義を明確にしていく。具体的には、H2AXの相同組み換え遺伝子発現制御に関与する予測されている転写因子さらにはヒストン修飾酵素について着目する。これらのタンパク質の発現や活性をRNAiや阻害剤によって抑制し、H2AXが発現制御する標的遺伝子の発現をリアルタイムPCRやウェスタンブロットで評価する。また、H2AX欠損の影響であることを明確にするために、H2AX発現ベクターの導入によるH2AX過剰発現細胞における標的タンパク質の発現変化ついて検討を行う。
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