2020 Fiscal Year Annual Research Report
イオン性化学物質の生物濃縮特性の解明と予測手法の開発
Project/Area Number |
20H04356
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
小林 淳 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (00414368)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 健郎 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 室長 (90311323)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生物濃縮係数 / 速度定数 / イオン性有機化学物質 / タンパク結合 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
イオン性有機化学物質はポリ塩化ビフェニル(PCB)等の疎水性物質と物性が大きく異なるため、既存手法による生物濃縮性の予測精度は十分でない。本研究では、イオン性有機化学物質の魚類に対する生物濃縮特性の解明と予測手法の構築を目的とした。令和2年度は研究計画にしたがってイオン性有機化学物質の暴露実験、肝S9を用いた代謝実験、タンパク結合実験を実施した。暴露実験では、ニジマスを対象として10種類の医薬品の取り込み・排泄速度定数、生物濃縮係数(BCF)等を明らかにした。各医薬品の取り込み・排泄速度定数は物質により大きな幅があった。本研究で得られたBCFの実測値を米国EPAが提供するBCF予測システム(EPI Suite)の予測値と比較した結果、10物質中9物質において実測値が予測値より低い値を示し、過大予測されていた。特にセルトラリンとロラタジンのBCFの予測値は本研究の実測値の1000倍程度高く見積もられた。これらの物質については肝S9代謝実験の結果から代謝されやすいことが示されており、既存のBCF予測手法では代謝による消失過程等が過小評価されている可能性が示された。 また生物濃縮性が懸念されているペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の代替物質などを対象にタンパク結合実験を行い、結合定数を求め、類縁化学物質との比較を行った。さらに、ドッキングシミュレーションを行い、対象物質とアルブミンとの結合定数を推定するとともに、アミノ酸残基との結合様式に関する情報を得た。 イオン性有機化学物質に対する高精度の生物濃縮予測手法を確立するための解析用のデータセット作成を進めた。水生生物とくに魚類におけるイオン性化学物質の動力学実験の文献を調査し、全身およびそれと同等と考えられる部位についての浄化速度定数および経路別の取り込み速度定数について、一定の基準を満たすデータの収集を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニジマスへのイオン性有機化学物質の暴露実験、代謝実験、タンパク結合実験を行い、それぞれの実験において生物濃縮に関する主要なパラメータを得ることができた。また、対象物質の生物濃縮性を予測するための因子を検討し、良好な予測精度を得られる物性値を確認した。さらに、対象物質の代謝やタンパク結合について、ドッキングシミュレーションを用いた解析手法を検討し、代謝速度やタンパク結合の予測に関する基礎的な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は対象とするイオン性有機化学物質の幅を広げ、引き続き実験を行う。実験により得られた各速度定数やタンパク結合定数を規定する因子を検討する。また必要に応じて暴露実験を実施し、イオン性有機化学物質の速度定数等の情報を集積する。さらに、本研究の結果に加えて文献調査を行い、イオン性有機化学物質の取り込み・排泄速度定数、生物濃縮係数等のデータセットを作成する。このデータセットを用いてイオン性有機化学物質の生物濃縮係数の高精度な予測手法を検討する。
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