2021 Fiscal Year Annual Research Report
リスク・マネジメントを軸としたアスベスト災害予防の公共政策研究
Project/Area Number |
20H04393
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森 裕之 立命館大学, 政策科学部, 教授 (40253330)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アスベスト / リスク・マネジメント / 公共政策 / ストック災害 / 補償基金制度 / 建設・解体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はストック災害の解決困難性を踏まえた上で、その典型であるアスベスト災害を対象として、被害予防を徹底するための公共政策の学術的・実践的探究を行うことが目的である。ストック災害では、その原因物質の生産・消費が盛んに行われた後に被害が顕在化するため、政策対応も事後的となる傾向をもつ。そのため、日本では過去の生産・消費活動によって蓄積されたアスベストによる新たな被害発生のリスクに直面している。そこで本研究では、アスベスト災害の予防徹底のためのリスク・マネジメントの追求を軸とした調査研究と実践的取組を通じて、ストック災害の政策論の確立に取り組む。 本年度の主な研究活動・業績として、過去のアスベスト健康被害が最も多く出ている建設労働現場での過去の対策およびその被害補償をめぐる検討が挙げられる。特に国内情勢として、2021年5月17日に建設アスベスト訴訟についての初の最高裁判決が出され、国および建材メーカーの法的責任が確定した。この判決内容を鑑みつつ、過去のアスベスト対策の検証および責任・補償に関する判決の合理性について検討を行った。これらの検証・検討は、今後のアスベスト災害に対する制度構築を推進する上での教訓や基礎的知見として必要不可欠といえる。 さらに、この最高裁判決を踏まえて、建設アスベスト被害者への給付金制度が創設されたが、現在は国の責任・負担分のみの制度であり、建材メーカーが不参加で未完成の状態にある。また、建設労働以外も含めての全てのアスベスト被害者への十分な救済・補償制度を創設する社会的必要性も高い。これら救済・補償の拡充とその制度化は、今後起こりうるアスベスト災害の責任の重さを明確とするものであり、予防対策と一体で取り扱うべきものである。これらの学術的考察にも取り組んできており(その途中成果として「備考」の集会報告)、次年度に継続・成果発信を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度から引き続き理論や歴史のサーベイ的な研究、行政資料や現行のアスベスト災害に関する情報収集、礎的な資料文献の確保などの研究遂行の上での環境整備を順調に進めている。オンライン上での海外資料の入手や研究交流は行ってはいるが、海外への訪問・ヒヤリング調査は困難な状況が続いてしまっているため、そこに係る計画上の取り組みは滞っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に則り、現状における適正なアスベスト管理・処理の徹底に向けての政策研究として、政府・自治体の対策動向やリスクコミュニケーションによる当事者意識の醸成の考察、基礎的研究調査として過去のアスベスト使用実態や健康被害の発生状況等の歴史研究を並行的に遂行していく。研究実績の概要でも触れたように、アスベスト災害をめぐる現在の政策動向とも連動しつつ、成果のとりまとめ・発信に注力していく。
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Remarks |
【集会報告】森裕之「建設アスベスト訴訟から石綿被害補償基金制度へ」2021年度なくせじん肺全国キャラバン集会(東京都・星陵会館)、2021年10月28日。
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Research Products
(1 results)