2020 Fiscal Year Annual Research Report
Giant Exchange Reaction from Hydrogen to Deuterium on a Nanocrystalline Silicon Surface
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20H04455
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
松本 貴裕 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (10422742)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大原 高志 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (60391249)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シリコン / 表面 / 水素 / 同位体 / ナノ結晶 / 置換反応 / 赤外振動 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素終端ナノ結晶シリコン(Si)に光を照射することによって水素離脱現象がおこることが知られている。一方, 重水素終端ナノ結晶Siに光を照射しても重水素が容易に離脱しないことを見出した。化学的結合エネルギーが同じである水素と重水素で,どうしてこのように大きな水素離脱速度の違いが存在するかについては,現在のところ明確になっていない。本年度の研究において,水素終端ナノ結晶Siの赤外振動状態に着目して中性子非弾性散乱実験をおこなったところ,水素から重水素への特異な交換反応が起こることを発見した。この反応は,n-Siを重水素を含む溶液に浸すだけで,n-Si表面の水素が重水素に積極的に置換されるというものである(濃縮率は4倍)。本中性子非弾性散乱実験と量子力学に基づくエネルギー計算を組み合わせることで,n-Si表面の水素が重水素に置換される濃縮率について,定量的に評価することに成功した。この交換プロセスは, n-Si表面に結合した水素と重水素の量子力学的零点エネルギーの相違に密接に関連していると考えられる。 また, シリコンナノ結晶表面に結合した2個の水素原子が,安定した量子もつれ状態になることを発見した。中性子非弾性散乱法を用いて,シリコン表面(Si:100面)に結合した水素の振動状態を観測し,2個の水素が量子もつれ状態にある直接的証拠を得ることに成功した。この量子もつれ状態の特長としては,従来の水素分子の量子もつれ状態と比較すると,10倍以上の大きな振動エネルギーを有するため,室温でも安定な量子もつれ状態を形成することができる。また,シリコン半導体表面処理技術を利用することによって,従来(10^2 bit)よりも遥かに多い10^6個以上の量子ビットの形成が可能となる。現在,この量子もつれ状態を利用した量子情報処理実験の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,以下の2つの研究テーマを推進している。 (A)ナノ結晶シリコン(n-Si)表面における水素重水素同位体置換反応メカニズムの解明: ナノ結晶シリコン(n-Si)の表面で,水素から重水素への特異な交換反応が起こることを発見した。この反応は,n-Siを,重水素を含む溶液に浸すだけで,n-Si表面の水素が重水素に積極的に置換されるというものである。その置換反応メカニズムは,中性子非弾性散乱法を用いて解明された。本実験と,他の分光法や量子力学に基づくエネルギー計算を組み合わせることで,n-Si表面の水素が重水素に置換されるメカニズムを定量的に解明することに成功した。この交換プロセスは,n-Si表面に結合した水素と重水素の量子力学的零点エネルギーの相違に密接に関連していることが判明した。 (B)シリコンナノ結晶表面に結合した2個の水素原子が示す量子振動効果の解明: シリコンナノ結晶表面に結合した2個の水素原子が,安定した量子もつれ状態になることを発見した。中性子非弾性散乱法を用いて,シリコン表面に結合した水素の振動状態を観測し,2個の水素が量子もつれ状態にある直接的証拠を得ることに成功した。この量子もつれ状態の特長としては,従来の水素分子の量子もつれ状態と比較すると,10倍以上の大きな振動エネルギーを有する(水素分子:10 meV,シリコン表面水素:100 meV)。このため,室温でも安定な量子もつれ状態を形成することができる。また,シリコン半導体表面処理技術を利用することによって,従来(10^2 bit)よりも遥かに多い10^6量子ビットの形成が可能となる。この量子ビットを利用することによって,現在のスーパーコンピューターを用いては解くことができない問題(例えば大きな桁数の因数分解)を一瞬で解くことが出来る超高速量子コンピューターを構築することが可能となることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
①重水素および三重水素終端特性を評価するためのナノ結晶Siの作製: 水素終端ナノ結晶Siと重水素および三重水素終端ナノ結晶Siの作製をおこなう。水素終端ナノ結晶Siはフッ化水素酸およびエタノール混合溶液中で電気化学的にエッチングして作製する。ナノ結晶Siの粒子サイズを制御するためにフッ化水素酸およびエタノール混合溶液の混合比を変化させて試料を作製する。また,重水素および三重水素終端ナノ結晶Siは水素終端ナノ結晶Si表面でおこる置換反応を利用して作製する。 ②水素,重水素および三重水素が終端したIV属半導体の表面終端密度評価: 作製した水素および重水素終端IV属材料を用いて非弾性中性子散乱実験をおこなう。本実験で得られたスペクトルを水素終端ナノ結晶Siで既に得られているスペクトルと比較し,水素から重水素および三重水素への置換反応の量子力学的メカニズムを明らかにする。三重水素終端IV属半導体材料の三重水素終端密度については,名古屋市立大学が保有する放射線装置を用いて定量的に評価する。 ③重水素終端IV属半導体材料の量子力学的解析: 現在までに確立した量子二重振動子モデルに基づきIV属半導体材料表面における水素,重水素および三重水素の量子力学的振る舞いを解明する。具体的には上記②で得られた非弾性中性子散乱スペクトルから水素の波動関数並びにポテンシャルを求める。終端した水素原子は局在性が強い調和ポテンシャル状態下に存在するため,Si-Hの屈曲振動モードは1msと長い時間励起状態に存在することが予測される。一方,重水素および三重水素の屈曲振動モードはナノ結晶Siのフォノンエネルギーが共鳴しているため,1psと高速で緩和することが予測される。得られた一連の実験結果および量子力学的解析手法について,米国物理学会へ論文投稿をおこない,新規研究成果の情報発信をおこなう。
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Research Products
(1 results)