2021 Fiscal Year Annual Research Report
分子・細胞・組織レベル同時計測に基づく再生心筋組織の収縮力の発現メカニズムの解明
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20H04509
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
神戸 裕介 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (30747671)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 心筋組織 / FRET / ゲル / シルク / 収縮力 / 生分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、再生心筋組織の階層構造における各レベル(分子群、細胞、組織)の収縮力を計測する技術を開発することで、再生心筋組織の収縮力発現メカニズムを解明することを目的とする。また、再生組織の成熟に重要な細胞足場材料の弾性率や生分解性の制御などの周辺技術の確立にも取り組む。 今年度は、前年度に開発した再生心筋組織の組織レベルの収縮力計測技術の妥当性の確認を行った。物性が既知の薄板ガラスをカンチレバーとして用いる組織レベル収縮力計測系では、計測途中に培地にアドレナリン(心筋収縮力を増強させる効果を示す)を添加した。その結果、収縮力が約1.2倍に増加し、この増加割合は、既報(PloS One 2021;13:e0198026)と同程度であった。これより、再生心筋組織の組織レベルの収縮力を計測する技術を確立できた。 また、再生心筋組織の変形に追随し得る弾性的な細胞足場材料を得るため、シルクフィブロイン(シルク)の化学ゲルを作製した。シルク溶液に西洋ワサビペルオキシダーゼと過酸化水素を添加することで、シルクタンパク質を構成するチロシンの側鎖どうしが化学結合して架橋点となるゲルを得た。本ゲルのヒステリシス測定を行った結果、物理ゲルに比べて狭いループを示したことから、力の負荷・除荷に追随し易いゲルを得ることができた。 さらに、FRETセンサー固定化ゲルをマウスに移植することで、細胞足場材料が再生組織に置換される過程を解明した。FRETセンサーのリンカーがタンパク質分解酵素によって切断されると蛍光スペクトルが変化することを利用し、生体内での足場材料の生分解を可視化した。その結果、足場材料は、移植後3時間以内に酵素によって分子レベルの分解を受けることが分かった。 上記のごとく、収縮力計測技術のみならず、その周辺技術によっても有益な知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所属機関の変更に伴い、実験への着手が遅れた。特に、規制対象実験への対応に時間がかかった。ゲルへのセンサーの固定化技術や細胞足場材料として用いるゲルの弾性率や生分解性の制御・解明などの周辺技術に関しては、論文公表まで進んだものの、収縮力計測技術の確立や組織全体が同期して自己拍動する再生心筋組織の構築が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
収縮力計測のための観察中に温度が低下することで再生心筋組織の拍動が弱くなるため、収縮力計測の妨げとなっている。このため、CO2インキュベーター内に設置可能な顕微鏡を調達し、観察に用いる。また、再生心筋組織の組織レベルでの拍動にムラがある、すなわち、組織全体が同期して拍動しないため、組織レベルで同期した拍動を示す再生心筋組織を得るための培養条件を探索、確立する。これらの対策に基づき、収縮力計測技術の確立を推進する。
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