2021 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary Empirical Research Project on Disfluent Utterance Patterns
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20H05630
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
定延 利之 京都大学, 文学研究科, 教授 (50235305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 良子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20347785)
舩橋 瑞貴 群馬大学, 国際センター, 准教授 (20533475)
遠藤 智子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40724422)
丸山 岳彦 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (90392539)
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Project Period (FY) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 非流暢性 / コミュニケーション / 日本語教育 / 言語障害 / 意図 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、母語話者・学習者・言語障害者の非流暢性について研究分野ごとの観察・分析を進めると共に、非流暢性に対する、言語学・会話分析・第二言語教育学・言語障害研究という多分野からのアプローチを無理なくすべて収容できるような、総合的・包括的な非流暢性の研究枠組みの検討を進めた。この作業の代表的な成果としては、日本語プロフィシェンシー研究学会10周年記念シンポジウムでのパネルセッション「非流暢で自然な日本語」(2021年6月26日)、および日本音声学会第35回全国大会でのワークショップ「日本語音声コミュニケーションにおける非流暢性をめぐって」(2021年9月26日)を挙げることができる。これらのセッションでは、これも前年度から引き続いた形で、研究代表者・研究分担者が総出で、分野の融合を試みた。そこで見え始めたのは、非流暢性発話における規則性が、状況依存的な、準コード的なあり方をしているという考えである。 また、言語学ないし会話分析的な分野では、国際会議EAJSにおいて、海外の有力な研究者たちと合同でパネルディスカッション"Beyond Sententialism"(2021年8月27日)を開催できたことも大きな収穫である。伝統的な仮定とは異なり、健常の母語話者の発話が非流暢性を多分に含んでいるという認識は、整然とした文ばかりが並んで談話が構成されるという「唯文主義」の批判的検討へと発展でき、文法論の再検討へとつながった。 その他、学術雑誌1誌で非流暢性特集を企画し、研究集会(共催)1件、著書1冊、論文7篇、招待講演3件、学会発表35件をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、非流暢性に関する先行研究だけでなく,言語研究一般に対しても,大きなインパクトを与えることができた。具体的には以下4点が理由である。 第1点。本研究は,非流暢性に関する先行研究の量的分析の前提を部分的に崩した。発話中の非流暢なポーズを,先行研究は「中断」(suspension)としか考えていなかったが実は,破裂音や破擦音関連の非流暢性発音は,「中断」だけでなく「延伸」(prolongation) の場合もある。本研究では「中断」「延伸」の両場合の違いについても調音音声学的に論じている 第2点。本研究は,音韻語に関する一部の研究に軌道修正を迫る。日本語の音韻語の発話中にポーズは生じ得ないとされ、ポーズが許されるか否かが音韻語認定の通言語的基準になり得ると考えられている。しかしながら,本研究が現実の例を挙げて示したように,現実の発話では,音韻語の内部にポーズが生じることも十分ある。音韻語に関する議論は,本研究によって,軌道を修正されることになる。 第3点。本研究は,「文法」(ひいては言語研究)のあり方を根本的に変える。これまで文法は,非流暢性とは無縁の存在として構想されていた。だが,これまで文法が説明していた現象は,発話を少し非流暢にするだけで,大幅に変化することが本研究のアンケート調査で明らかになった。これは,文法,ひいては言語研究は,非流暢性をもはや無視できないということである。 第4点。本研究が研究の中で実施する,コーパスに対するアノテーションは,一般公開を予定している。これは,今後の日本語研究者が非流暢な発話を検索し実態を調べる上で有力な手がかりとなる。 最後に、李[音欠][王月](研究協力者)・石井カルロス寿憲・林良子(研究分担者)の研究発表「中国語を母語とする日本語学習者による態度音声の音声分析」が2021年度日本音声学会優秀発表賞を得たことも特筆しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響は現時点においても依然として予測し難いところがある。そのため、手近なところから確実に作業を進めて、成果を挙げていきたい。 審査員の所見でも指摘されていたように、このプロジェクトの生命線は、記述言語学・コーパス言語学・会話分析・言語教育・言語障害研究といった学問分野の研究を共働させるところにある。この点を堅持して、それぞれの分野のグループが自身の分野で成果を発表するだけでなく、できるだけ多くの学会や学術誌において、研究代表者と研究分担者の全員が発表・投稿し、分野間の対話を進め、学際的なアプローチを展開していきたい。 最終成果物として約束しているのは、電子資料館、教科書、そして英文の論文集という3点である。が、これらとは別に、和文の論文集も、なるだけ早期に出版し、その出版作業を通して、非流暢性に関する分野を超えた概念発想を得て、最終的な英文論文集のための足場固めをしておきたい。 また、今後の言語研究・発話研究・コミュニケーション研究への根本的な貢献となるような、新しいタイプのコーパスも開発を目指したい。
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Research Products
(48 results)