2022 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary Empirical Research Project on Disfluent Utterance Patterns
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20H05630
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
定延 利之 京都大学, 文学研究科, 教授 (50235305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 岳彦 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (90392539)
遠藤 智子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40724422)
舩橋 瑞貴 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (20533475)
林 良子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20347785)
モクタリ 明子 富山県立大学, 工学部, 講師 (90963413)
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Project Period (FY) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | (非)流暢性 / コミュニケーション / 誤用 / 言語障害 / 音声合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
分野横断的な研究活動を通して,一つの大きな知見が得られ,それを契機として,言語からコミュニケーション全体へと研究の射程が広がった。その知見とは,非流暢性は想定されていたより遥かに社会的な,いわば「亜コード」だということである。この知見を5点に分けて述べる。 第1点(文法的知見)。母語話者の非流暢な発話は,断片的で無意味なエラーではない。実は非流暢な発話の形式は整然としており,その発話形式に応じて特定の態度が醸し出される。発話形式と態度の間には,コードに近い規則的な対応がある。第2点(発話行為論的知見)。ただし,非流暢な発話の形式と,醸し出される態度の間の規則的な対応は,話し手と切り離せない。話し手の人物像(すぐ下で述べる)が聞き手に値踏みされ,「日本語の基礎的能力有り」と判断されて初めて,規則的な対応は意味を持つ。非流暢性は,この点でコードとは異なる。第3点(社会言語学的知見)。非流暢な発話形式は,態度だけでなく,話し手が繰り出す人物像(「発話キャラクタ」)とも規則的に対応し,結びついている。第4点(コミュニケーション論的知見)。非流暢に話すことは,「権利」の行使でもある。第5点(言語障害的・言語教育的知見)。言語障害者の非流暢性を「病理的なもの」として,以上4点の社会的特徴を持つ母語話者の非流暢性から切り離すことはできない。同様に,言語学習者の非流暢性も段階的・連続的なもので,程度差はあれ,母語話者の流暢性とつながっている。 以上をまとめると,非流暢な発話は(母語話者・学習者・言語障害者により程度はさまざまであれ)「コードのように社会性を帯びているがコードではないコミュニケーション行動」として位置づけられる。このことは,言語を越え,コミュニケーション全体にまで射程を広げた、非流暢研究の新展開の第一ステップとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下、理由を4点に分けて述べる。 1.従来の非流暢性研究の前提を覆す大きな成果を挙げることができた。2020年11月に「審査結果所見」で高評価をいただいた「学際的かつ実証的」という研究姿勢を堅持して,非流暢性に関する先行研究の前提を覆す大きな成果を挙げることができた。 2.非流暢性研究を超え,コミュニケーション研究にまで貢献が見込まれる。得られた成果はさらに,想定されていた領域(「言語」)を越えて,コミュニケーションにまで及んでいる。発話の非流暢性がコードモデルからどのように逸脱するのかを追究することは,言語研究を越えて,コミュニケーション研究に大きく貢献する。 3.高レベルの最終成果物が期待できる。本研究に実証性を与える,具体的なモノづくりは,いずれも順調に進展している。非流暢な話し方についての電子資料館構築 資料館は,掲載すべき資料を着々と増やしている。母語話者のように非流暢かつ自然に話す音声合成システムについては、モデル話者の音声を会話相手ごとに区別してAIに学習させたところ,くだけた日常会話音声が,高い自然さで合成できた。日本語学習者が母語話者のように非流暢かつ自然に話すための,非流暢性の教科書の開発も順調に進んでいる。「審査結果所見」でいただいた「言語教育や音声合成技術におけるイノベーションを起こす可能性を秘めている」との期待に,高いレベルで応えられることが見込まれる。 4.成果公表が順調に進んで研究者ネットワークが広がり,若手研究者が育っている(受賞あり)。各種の学会や出版物において,複数の班で研究分野を越えて発表・執筆した反響は大きく,研究協力者が大幅に増加し,若手研究者が受賞している(発表21)。今後は投稿中・準備中の英文論文が出版され,さらに海外の有力な協力者たち(打診済み)とも連携して英文出版を加速させる計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、コロナのために開催が遅れた中間会議(2023年3月26日開催)を踏まえて、和文論文集を出版する。さらに、最終成果物として約束している「非流暢性発話の教科書」「非流暢性発話の電子資料館」「英文の論文集」の準備を進める。各班の研究実施計画は以下のとおりである。記述言語学班は、これまでに得られた「亜コード」(コード的だが状況から切り離されていない)というアイデアのさらなる発展を図るとともに、文法全体が状況から独立しきっておらず、根源的には状況に依存していることを、語句どうしの意味関係の観察をも踏まえて明らかにする。さらに、非流暢性研究を状況の中での発話スキルの問題として一般化する可能性を検討する。コーパス言語学班は、非流暢性に対するアノテーション結果の公開準備を進めるとともに、非流暢性のアノテーション方法を拡大する方法論について検討する。その一例として、日本語の語内部でのとぎれと延伸について実態を明らかにする。会話分析班は、母語話者の非流暢性発話が現実のコミュニケーションの中で承認され、利用されさえする実体を引き続き明らかにする。言語教育班は、非流暢性発話教育が学習者の発話の自然さを向上させることを日本語母語話者のアンケート調査を通して実証的に示す。言語障害班は、引き続き言語障害の具体的症例について明らかにする。音声合成班は、これまでに開発してきた合成音声の自然さを問うアンケート調査の結果をまとめ、国際的な場で成果を発表する。さらに、合成音声の効果的な使用法について検討をおこなう。また、各班がそれぞれの目標を達成するだけでなく、班どうしのインタラクションの機会を増やし、課題となることを洗い出して、研究が総花 的にならないよう留意する。
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Research Products
(50 results)