2020 Fiscal Year Annual Research Report
電磁トラップを利用したミュー粒子の質量と磁気モーメントの精密測定と新物理探索
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20H05646
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
下村 浩一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (60242103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 光宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (60391710)
飯沼 裕美 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (60446515)
佐々木 憲一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 教授 (70322831)
仁尾 真紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 上級研究員 (80283927)
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Project Period (FY) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | ミュオン / 超微細構造 / 磁気モーメント / 電磁トラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子標準模型は物質の基本構成要素とそれらの力学を記述するもので、ヒッグス粒子の発見により理論的だけでなく実証的にも完成した。しかし、模型のパラメタが多すぎることや、暗黒物質の担い手となる粒子が含まれていないことなど、数多くの問題を内包している。それらを解決する素粒子標準模型を超える新物理は必ず存在する。その兆候を探す有効な手段として、本研究では、測定の精度を究極まで高めるという実験手法を採用する。ミュオンはほどほどの質量と寿命を持ち、標準模型の検証、そして新物理を探索するプローブとして最適である。長く、世界各地でミュオン研究が行われているが、ミュオン自身そしてミュオンを含む物理現象に、素粒子標準模型では説明が困難なものが複数観測されている。本研究では、ミュオン、特にそのスピンに関する周波数精密測定を複数の物理系で行い、ミュオン粒子そのものの実験的理解を究めることで、新物理探索を目指す。 [ミュオニウム]これまでの実績の発展として、ミュオニウム(正ミュオンと電子のクーロン束縛系)の磁場下でのゼーマン副準位の高精度測定を実施する。すでに磁場のない状態での基底状態超微細構造測定において、最高精度を達成している。さらに磁場のある状態での測定を実施することで、一桁以上高い精度でのミュオニウムの超微細構造(1ppb)およびミュオンの磁気モーメントと質量(ともに5ppb)を決定する。 [ミュオントラップ]ミュオンを電磁トラップ(ペニングトラップ)で捕獲し、トラップ内でのミュオンの運動を観測する。ミュオンペニングトラップは世界初の挑戦で、超低速ミュオンビームを大量に生成できる日本のJ-PARCでのみ可能な実験である。ミュオンの磁場下での周回周波数を測定することで、ミュオンの磁気モーメントと質量を最高精度(2ppb)で決定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では究極の目標として、ミュー粒子(ミュオン)にかかわる相互に関連した二つの 精密測定研究を実施する。一つはこれまでの実績の発展として、2体束縛系であるミュオニウム(正ミュオンと電子の束縛系)の磁場下でのゼーマン副準位を高精度で測定することで、従来より一桁以上高い精度でミュオニウムの超微細構造(1ppb)および、ミュオンの磁気モーメントと質量を(約5ppb)で決定する。もう一つは、超低速ミュオンビームとペニングトラップの手法を組み合わせることにより、単一粒子ミュオンの測定を新たに開始し、ミュオンの磁気モーメントと質量をミュオニウムとは全く独立に、最高精度(2ppb)で決定する。これらの結果を総合し、進行中のミュオニウム1s-2sエネルギー準位差測定、ミュオン異常磁気能率(Muon g-2)測定との比較、様々な理論モデルとの照合によって、素粒子標準理論を超えた新物理の探索を行う。 本年度は各種要素技術開発に集中し、以下の成果を得た。1)超伝導電磁石磁場一様性の確保のための磁性流体を用いたシミング手法の確立。2)磁場一様分布の測定のためのNMRプローブアレイの予備機製作。3)3HeNMRプローブの基礎開発のためのガラスセルの製作および3He準安定状態励起の確認。4)トラップの概念設計およびフルシミュレーション環境の構築。5)超低速ミュオン発生用の244nmレーザーの開発。 またJ-PARCミュオン施設のパルス状ミュオンを用いた最初の結果を論文公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の前提である、大強度ミュオンを供給するミュオン施設Hラインは順調に建設が進んでおり、予定よりは遅れたものの2021年度に確実にビームを出せる状況となった。我々としてはビーム供給後、速やかにまずはミュオニウム超微細構造の高磁場下での測定を開始すべく万全の体制で準備を進めてきている。現状実験実質関して困難はない。いっぽうすみやかに信頼できる物理量を提示するためにはいわゆるブラインドアナリシスの手法を確立することが重要であり、現在その検討を進めている。ミュオントラップについては現段階で概念設計は終了しており、今年度の実機製作に向けて実施設計を進める。関連する要素開発としてミュオニウムイオン化のレーザーを今年度中に完成しSラインでのその性能試験を行う。また3Heプローブの開発では実際に使用する高磁場マグネット中での光ポンピングを行い、現在確率しているH2ONMRプローブとの比較を行う。陽電子検出器についてはプロタイプの製作を行い、実環境下でのテスト実験を実施する。
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Research Products
(12 results)