2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H05687
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
木下 俊則 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 教授 (50271101)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢守 航 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90638363)
佐藤 綾人 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任准教授 (10512428)
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Project Period (FY) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 気孔 / 環境応答 / 成長制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の表皮に存在する気孔は、植物固有の代謝反応である光合成に必要な二酸化炭素の唯一の取り入れ口であり、刻々と変動する環境に応答してその開度を調節している。これまでの研究により、気孔を構成する一対の孔辺細胞では、青色光や赤色光に応答して細胞膜プロトンポンプがリン酸化により活性化され、気孔開口の駆動力を形成することなど、気孔開・閉に関わる重要な分子機構の一端が明らかとなってきた。しかしながら、その詳細については依然不明の部分が多い。 本研究では、光に応答した気孔開口や閉鎖の分子機構を、申請者らのこれまでに培ってきた技術・経験を生かした生理・生化学・遺伝学的手法やケミカルバイオロジーを駆使して解明進めてきた。その結果、気孔開口の駆動力を形成する細胞膜プロトンポンプの活性制御に関わるキナーゼを阻害する化合物やそれら化合物の標的候補因子の同定し、細胞膜プロトンポンプの脱リン酸化を触媒するホスファターゼを同定した。また、ホスホプロテオミクスに基づいたシグナル伝達候補因子や気孔開閉を制御する化合物とその結合タンパク質も同定した。さらに、これらの知見に基づき気孔開度を制御することで、植物の成長促進や乾燥耐性の付与の技術確立を目指した研究において、細胞膜プロトンポンプを過剰発現させたイネの「ポンプ植物」を作出し解析を行なった結果、気孔開口、光合成や根における養分吸収が促進され、イネの収量が30%以上増加することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究項目1の孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化制御の解析において、孔辺細胞内で特異的にH+-ATPaseを脱リン酸化する候補ホスファター ゼとしてPP2C.D6とD9を同定し、この内容を投稿した原著論文の改訂を進めている。さらに、プロトンポンプのリン酸化のみを特異的に阻害する化合物Bについて解析を進め、結合タンパク質を同定し、その機能解析を進める段階に到達した。 研究項目2の網羅的ホスホプロテオミクスによる気孔開・閉調節因子の探索において、同定した気孔開閉への関与が知られていないタンパク 質(50個以上)について解析を進め、6遺伝子の変異体において気孔の開度に表現型がみられることを見出した。 研究項目3の気孔開度に影響を与える化合物の同定と作用機作の解明については、化合物スクリーニングより同定した気孔開口抑制化合物Tの解析を行い、構造類似性の解析から、標的因子と考えられる遺伝子を同定した。興味深いことに、この因子の変異体では、気孔開口抑制化合物Tにい対する感受性がみられないことが、この因子が細胞内結合タンパク質をして機能していることを強く示唆している。この成果は、化合物スクリーニングから細胞内結合タンパク質を同定した成果として、現在投稿準備を進めている。さらに、同じスクリーニング法により同定した気孔開口抑制化合物Bについても詳細な解析を進め、研究分担者の佐藤の協力により、作用効果が20倍以上に高まった新規化合物の創製にも成功し、こちらも現在投稿準備を進めている。 研究項目4の気孔開度制御については、細胞膜プロトンポンプの発現を高めたイネでは野外圃場での収量が30%増加することを見出し、Nat. Commun. (2021)に発表し、多くのメディアで紹介された。 このように研究が大きく進展したことから「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
気孔開・閉のシグナル伝達の解明に向け、以下の研究項目1~4の研究を推進する。 研究項目1、孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化制 御に関わるキナーゼ・ホスファターゼの解析については、本研究で明らかとなってきたH+-ATPaseを脱リン酸化する候補ホスファターゼであるPP2C.D6とD9の孔辺細胞における相互作用因子の同定と活性制御機構を明らかにする。 研究項目2、網羅的ホスホプロテオミクスによる気孔開・閉調節因子の探索については、これまでに同定した気孔開閉への関与が知られていないタンパク 質(50個以上)について、シロイヌナズナのノックアウト変異体や過剰発現体などを用いて詳細な機能解析をさらに進める。 研究項目3、気孔開度に影響を与える化合物の同定と作用機作の解明については、これまでに同定した気孔開口抑制化合物(200個以上)や気孔開口 促 進化合物(5個)についてさらに詳細な解析を進めることで、気孔の開・閉のシグナル伝達の分子機構を明らかにする。また、入手可能な適 切な ライブラリーがあれば、新たに気孔開度スクリーニングを行う。 研究項目4、気孔開度制御した植物体の成長促進や乾燥耐性の付与:研究項目1~3の研究で明らかとなった候補遺伝子について、シロイヌナズナ の孔辺細胞特異的に発現を誘導した組換え植物を作出し、研究分担者の矢守と密接に連携して光合成能や成長の解析を進める。また、研究項目 3の研究で明らかとなった化合物については、化合物散布による葉の萎れ抑制効果や開口促進による光合成への影響を調べることで、植物鮮度 保持剤・乾燥耐性付与剤や成長促進剤の開発の可能性を探る。
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Research Products
(18 results)