2020 Fiscal Year Annual Research Report
土壌病原菌フザリウムの宿主特異的な病原性の分子機構解明
Project/Area Number |
20J00007
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
鮎川 侑 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | エフェクター / フザリウム / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
シロイヌナズナに感染したキャベツ萎黄病菌(Focn)のトランスクリプトーム解析によって、CYP79B2/B3依存的な免疫の抑圧に関与するゲノム領域から、高発現する2個のエフェクター遺伝子候補を特定した。2個のうち1個は、病原性遺伝子と推定されているSIX8であった。もう一方の遺伝子は、報告例のない新規遺伝子(PSE1と命名)であった。興味深いことに、この2個の遺伝子はゲノム上で隣接していた。シロイヌナズナへの病原性が低下した病原性染色体喪失株に、SIX8およびPSE1の両方を含む遺伝子座、またはそのいずれかを導入した形質転換株を作出し、シロイヌナズナに対する病原性を調査した。SIX8またはPSE1のいずれかを導入した形質転換株では、病原性が復帰しなかったが、両方を含む遺伝子座を導入した株では病原性が復帰した。 SIX8およびPSE1が、他分化型に保存されているか調査したところ、トマト萎凋病菌(Fol)、およびシロイヌナズナやストックに萎凋症状を引き起こす菌(Fomt)から相同遺伝子を見出した。FomtのSIX8およびPSE1はFocnの当該遺伝子と相同性が高かった。Folからは2種類のSIX8(SIX8aおよびSIX8b)が報告されているが、SIX8aの近傍にPSE1と類似した塩基配列を見出し、PSL1と命名した。SIX8bの近傍には、PSE1と相同性の高い配列が認められたが、推定ORF内に転移因子が挿入されていた。次に、これらの相同遺伝子を、Focnの病原性染色体喪失株へ導入し、病原性が復帰するか調査した。Fomt由来の相同遺伝子の導入によって病原性は復帰したが、Fol由来の相同遺伝子では病原性は復帰しなかった。従って、シロイヌナズナに感染する他の分化型も、SIX8およびPSE1が遺伝的かつ機能的に保存されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、Focnが保持する病原性染色体から、新規ペアエフェクターを同定した。また、当該ペアエフェクターが、シロイヌナズナに特異的な免疫機構の抑圧に関与することを明らかにした。さらに、令和4年度に実施予定であったエフェクターの保存性解析を実施し、フザリウムにおける当該ペアエフェクターの遺伝的かつ機能的な保存性と、宿主範囲との関連性を明らかにした。今後の研究計画を前倒しで進めることができ、研究期間内に本研究課題を遂行できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
SIX8およびPSE1がCYP79B2/B3依存的な免疫をどのように抑圧するか調査する。SIX8およびPSE1を過剰発現させたシロイヌナズナを作出し、CYP79B2/B3依存的に合成される代謝産物を抽出し、活性の調査や定量を行う。また、当該エフェクターを過剰発現させたシロイヌナズナを用いたタンパク質間相互作用解析によって、ペアエフェクターの標的宿主因子を同定する。標的因子を欠損したシロイヌナズナに、エフェクターを欠損させたFocnを接種し、感受性を確認する。また、すでに特定済みの当該エフェクターの相同遺伝子をシロイヌナズナに過剰発現させて、機能が保存されているか調査し、機能モチーフの特定に利用する。
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