2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J00046
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
千草 颯 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 電弱真空の安定性 / 超対象模型 / ミューオンの異常磁気モーメント / 電子・陽電子加速器 / ヒッグス粒子 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度までの研究実施状況としては、(I)電弱真空の安定性を用いた新物理模型の検証、および(II)電子・陽電子加速器におけるヒッグス粒子の性質の探索手法の開発を行なった。以下では各研究内容について報告する。 (I)電弱真空の安定性を用いた新物理模型の検証 よく動機付けられた新物理模型の例として超対称模型に着目し、電弱真空の寿命を計算することで模型に対する制限を求めた。ここで特に、ミューオンの異常磁気モーメントに対する超対称模型からの寄与を考慮に入れ、近年の実験での観測値を説明可能なパラメーター領域に対して解析を行なった。結果としてこういった模型に含まれる新粒子であるスレプトンの質量には上限があることが明らかとなり、将来実験の到達目標をひとつ与えることに成功した。 (II)電子・陽電子加速器におけるヒッグス粒子の性質の探索手法の開発 電子・陽電子加速器における多くの背景事象の中からヒッグス粒子を含むイベントを選び取る操作を、機械学習の手法を用いて改善した。広い応用を持つ手法としてブースティング決定木や(畳み込み)ニューラルネットワークといったアプローチを取り、中でもニューラルネットワークの性能が最も良いことがわかった。従来までの特徴量カットに基づく手法と比べ、ニューラルネットワークを用いたイベント選別では、ヒッグス粒子の結合定数の決定制度に倍近くの改善が見込めることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(I) 電弱真空の安定性を用いた新物理模型の検証においては、多様な実験の結果から動機づけられた考慮に値する新物理模型の存在が不可欠であった。こういった観点において、フェルミラボが2021年の4月にミューオン異常磁気モーメントの新しい計測結果を発表し、超対称模型がその計測結果を説明可能な模型の一つとして脚光を浴びたことは幸運であった。昨年度までの我々の計算はこの模型への応用が容易であり、結果として新粒子の質量に上限を課すという興味深い結果に繋がった。
(II) 機械学習を用いた解析は近年における発展が目覚ましく、現状で最も注目を浴びている分野の一つであることは疑う余地がない。こういった分野と素粒子現象論分野をつなげるアプローチを日々考える中で、当初の研究計画には含まれていなかった電子・陽電子加速器の事象の分類というテーマに思い当たった。複雑な加速器実験の事象を分類する過程は機械学習が得意とする分野であり、実際に解析を行ってみることで、従来までの手法に比べて機械学習を用いる利点が多く存在することが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
アノマリー伝搬機構に基づく超対称模型に着目し、真空の崩壊率の表式を得る。これまでの研究で得られた将来実験における模型パラメータの決定精度を考慮に入れ、模型の一貫性から模型を検証する。また、機械学習を用いた将来実験における物理量の測定精度の向上法を考える。特に、教師有り機械学習を用いたイベントの分類により、gluinoの崩壊モードや終状態ゲージボソンの同定を目指す。学習の結果を精査し、各分類ステップの物理的な意味を読み取ることで、解析の改善のための指針を得る。
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