2021 Fiscal Year Annual Research Report
古典共形性及び新奇な宇宙描像から迫るプランクスケール物理と場の理論の接続
Project/Area Number |
20J00079
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
酒井 勝太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 量子情報 / エンタングルメント・エントロピー / 場の量子論 / 数値シミュレーション / 符号問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、前年度に続き、量子時空描像と物質理論の関係の解明に不可欠な、相互作用のある場の量子論におけるエンタングルメント・エントロピー(EE)を解析した。その結果、空間領域間の(EE)は、理論に含まれるあらゆる演算子の、くりこまれた2点関数で表せることを示した。これは、量子相関が低エネルギー有効理論での観測量と直接結びつくことを意味し、翻って時空の量子相関構造が現実の観測量に有意な影響を与えることを示唆するものである。時空が量子論の対象としてどういった存在であるかについて、新しい知見をもたらすきっかけになると期待される。 顕わな解析は、空間領域が半平面の場合について行った。その後、一般の空間領域に結果を拡張すべく研究を重ね、演算子の2点関数でEEが表せるという性質が、実際に一般の空間領域で成り立つものであると明らかにした。 当該年度はそれと並行して、量子系の数値シミュレーションの手法開発に関する研究を遂行した。行列模型をはじめとする量子系の実時間発展や、有限密度QCDなど、多くの系のシミュレーションで、被積分関数の複素位相が振動して数値積分が収束しなくなる「符号問題」が生じる。本研究の一環として、符号問題解決法の一つとして近年注目されている、レフシェッツ・シンブル法に焦点を当てた。これは積分変数を複素化し、被積分関数の位相が振動しないような複素積分路に積分路を変形するものである。 従来は、実装が極度に複雑、または計算コストが高い方法が採用されてきた。本研究では、機械学習の誤差逆伝播の考えを転用し、実装が容易で計算コストが低い(計算コストが高い従来法と比べ、系のサイズの逆数倍のコスト)方法を提案した。これにより、これまで非現実と思われていた大規模かつ複雑な系のシミュレーションを、符号問題を回避しながら行える可能性を切り開いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究の結果、本研究の要である量子時空描像が、計画当初に期待したものとは異なるものになると発覚していた。そのため本年度は計画を修正し、量子情報論的側面から時空と物質の関係を明らかにすることに集中した。また同時に、量子時空の創発の数値シミュレーションに関する研究を進めた。共形場理論の解析等、当初の計画そのものは遂行していないが、研究目的達成に向けた、より正しい方向に進んでいると判断される。その観点から、計画時の想定を超えた進展を見せているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
時空の量子相関構造や、数値シミュレーションの手法開発をさらに推し進め、量子論の対象としての時空と、それと物質理論の関係を追究する。これにより、時空理論のスケールであるプランクスケールと、物質理論のスケールの間に広がる階層性を、量子情報論的観点から明らかにすることを試みる。
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