2021 Fiscal Year Annual Research Report
被験者実験及び投機ゲームモデルを用いた意思決定構造が金融市場に及ぼす影響の研究
Project/Area Number |
20J00107
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
片平 啓 筑波大学, システム情報系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 被験者行動実験 / 価格情報 / 投機ゲームモデル / マルチエージェントシミュレーション / Stylized facts / 複雑系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、オンライン経済実験ソフトウェアoTreeを用いて、被験者行動実験を遠隔にて実施した。この実験では、価格情報の欠落が、人間の取引行動に与える影響について調査した。少数派ゲームを活用した多くの金融市場のモデルでは、エージェントの取引行動は、価格の変動方向の情報のみを頼りに決定される。しかし、人間の場合、提示される価格情報がこのように制限されると、通常の取引の仕方から変わってしまう可能性がある。そこで、モデルとの隔たりを明らかにするため、信用取引を模した一人用の株取引ゲームをWebサイト上に実装し、間隔を空けながら、価格情報の提示レベルを変えて各被験者に3回取り組んでもらった。採取したデータを分析した結果、価格情報が欠けるほど、本来の取引の仕方から乖離してしまうことが確かめられた。また、注文回数や注文量において、より対称的な売買を行うようになることも明らかになった。
この他、価格変動に内在する投機的な時間構造に関する論文を補強するため、追加して為替レートの分析や投機ゲームの拡張モデルなどでシミュレーション実験を行った。価格の平均回帰性がこの時間構造に関係があることや、時間スケールの増大で構造が非対称になっていくことも明らかにした。
さらに、投機ゲームに確率を導入することで軽量化したモデルPure Random Speculation Game(PRSG)を学会で発表した。PRSGでは、エージェントが価格変動を参考にせず、機械的に往復の売買取引を行っても、基本的なstylized factsが創発することを示した。しかし、投機ゲームで再現できた高次の特性がPRSGでは消失しており、また、上記の時間構造も見られないことから、両者には関連があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、新型コロナウイルスの感染拡大により実施できなかった実験室での被験者実験を、オンライン使用に実験デザインを一から見直し、遠隔にて執り行うことができた。本実験からは、売買取引における実際の人間とモデルのエージェントとの興味深い乖離が確認できており、論文として投稿できる目処が立っている。また、投機ゲームモデルや為替レートの分析により存在が明らかになったスケールに依存する投機的な時間構造についても、国際ジャーナルに投稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、投機ゲームモデルを基礎から見直し、より汎用性のある金融市場のエージェントベースモデルを新しく構築する予定である。投機ゲームは、stylized facts(市場価格に見られるいくつかの特徴的性質)の再現能力が高い一方で、エージェントの売買決定の仕組みが少し独特で、金融市場の他のシミュレーション研究に応用しづらい側面がある。よって、被験者実験から得られた価格情報に関する知見を利用し、特にエージェントの意思決定の構造を改良したいと考えている。また、採用の最終年度でもあるため、これまでの研究成果を論文として 積極的に投稿したい。
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Research Products
(2 results)