2020 Fiscal Year Annual Research Report
1820年代以降のウィーン体制における勢力均衡の機能
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20J00109
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
矢口 啓朗 関東学院大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 四国同盟 / ウィーン体制 / ニコライ一世 / 東方問題 / ロシア外交史 / ベルギー独立問題 / 会議外交 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(2020年度)は、新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、特に調査を予定していたロシア連邦やイギリスなど外国の公文書館における史料調査が実質的に不可能となったことから、主に所属研究機関における論文執筆が研究活動となった。1830年代のロシア外交の分析にあたっては、学振特別研究員となる以前にロシア帝国外交政策公文書館などで入手した未刊行史料の読解・分析に加えて、ロシア外務省が2005年に刊行した『19-20世紀初頭におけるロシアの外交政策(ВПР)』17巻を積極的に活用した。 とりわけ本年度においては、1830年代のロシア外交について1815年に締結された四国同盟に基づく対仏抑止という観点から、ロシアのヨーロッパ国際秩序への関与について考察した。1830年代は、1830年のフランス7月革命に端を発する自由主義革命と、オスマン帝国の衰退に伴って生じた東方問題によって、1815年から始まったヨーロッパの国際安全保障的枠組みであるウィーン体制にとって試練の時期となった。 これまでの研究においては、1830年代のロシアがオーストリア・プロイセンと言った保守主義イデオロギーを共有する国との協力枠組みである神聖同盟との連携を通じて、7月革命後のフランスの膨張を阻止しようとしてきたと論じられていた。これに対して本研究は、ロシアが動揺するウィーン体制を維持する上でイギリスの協力をどのように得ようとしていたのかという視点から、墺普両国にイギリスを含めた四国同盟の枠組みをどのように活用していたのかを論じようとした。とりわけ1830年代に二度開催されたロンドン会議の枠組みにおいて、ロシアは、西欧や東地中海地域でのフランスの勢力拡大を嫌うイギリスとの協力を通じた4大国の団結を見せつけることによって、フランスの勢力拡大を抑止しようとしていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定では1833年7月8日に締結されたウンキャル・スケレッシ条約における露英関係について、ロシアやイギリスの公文書館に所蔵された未刊行史料を基に研究するつもりであった。しかし、新型コロナウィルスの蔓延にともない、両国での史料調査がほぼ不可能になった中で、予定を変更して1830年代の会議外交におけるロシア外交についての研究を行い、並びに論文を査読誌に投稿することとした。 本年度は、2020年11月末日締切の査読誌『国際政治』第206号への投稿作業が主な研究活動であった。とりわけВПРに掲載された当時のロシア外相ネッセルローデとロシア在外公館のやり取りを読み進める中で、これまでの1830年代ロシア外交史研究ではあまり注目されていなかった、7月革命以降のイタリア半島において、ロシアがどのように7月革命後のフランスの勢力拡大を阻止しようとしていたのかについても検討することができた。2018年に出版されたMiroslav Sedivy (2018), The decline of the congress system: Metternich, Italy and European diplomacy, London & NY: Bloomsburyの読解と併せて、ロシアのヨーロッパ国際秩序への関与におけるイタリア半島の位置づけを考察した。 また、投稿後に帰ってきた『国際政治』への査読コメントに対応すべく、当時のイギリス外相であったパーマストン子爵の手紙をまとめた刊行史料や、イギリス政府内でどのような議論が行われたのかをまとめたホランド男爵の日記などを活用し、ロシアの未刊行史料や刊行史料と突き合わせることによって、当時の会議外交がロシア外交やウィーン体制という国際秩序への関与において、どのような意義を有していたのかを考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2020年度)の末日においては、まだ『国際政治』誌の査読コメントを踏まえた修正への反応が返ってきておらず、次年度(2021年度)においては、その結果を待つこととなる。また、次年度においても、新型コロナウィルスの世界的な蔓延が終わらないと予測されることから、引き続き国内においてロシアやその他の国で刊行された史料を活用しつつ、新たな論文の投稿作業や書評の執筆が主な研究活動となると予想される。 次年度における研究テーマは、ウンキャル・スケレッシ条約と露英関係を取り上げることを考えている。具体的には、学振特別研究員になる前に収集してきたロシア連邦の公文書館所蔵の未刊行史料の分析に加えて、1833年にオスマン帝国の首都イスタンブルにロシアの使者として派遣された軍人の日記Муравьев-Карсский, Н. (2020), Собственные записки 1829-1834, Москва: Кучково Поле; Муравьев-Карсский, Н. (2020), Собственные записки 1835-1848, Москва: Кучково Полеや、当時のノヴォロシア総督ヴォロンツォフ伯爵とロシア外相ネッセルローデや当時の駐オスマン帝国公使とのやり取りを19世紀に収録して出版したАрхив Князя Воронцоваを用いる。 加えて、本年度に読了したMiroslav Sedivy (2018), The decline of the congress system: Metternich, Italy and European diplomacy, London & NY: Bloomsburyなどの本についても書評としてまとめる予定である。
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