2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J00161
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
谷本 涼 東北大学, 大学院環境科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | アクセシビリティ / モビリティ / オンラインサーベイ |
Outline of Annual Research Achievements |
生活の質の高低や、生活の質を揺るがすアクセシビリティ関連の社会問題(待機児童問題やフードデザート問題など)の影響の大小は、地理的文脈(空間的アクセシビリティなどの地域特性)とともに、個人の意識・行動や諸属性(年齢や心身の能力、性別、居住地など)にも深く関係していると考えられる。このように、要因を地域と個人というスケールの異なる二者に切り分けられる事象は「マルチレベル現象」と呼ばれ、主に社会学・地理学において注目を集めている。そこで、生活の質やアクセシビリティ関連の社会問題の影響をより強く受ける集団や、その原因の所在を、地域レベルと個人レベルとに切り分けて捕捉し、シビル・ミニマムの保障を超えた個人の幸福度や生活の質の向上のために、真に必要な施策は何かを解明することが本研究課題の主眼である。 以上の目標に照らし、2021年度の研究では、2020年度末に実施したオンラインサーベイの結果に基づき、日常生活の中で必要なもの、あるいは望まれるものに、ふだん使っている移動手段で、あるいは自家用車が使えなくても、全体として大きな不便なくアクセスできると感じているかという指標(アクセシビリティの総体的感覚)に関する、管見の限り日本で初めての報告を英文誌上で行った。この報告では、アクセシビリティの総体的感覚が、年齢や世帯構成、自動車の利用頻度といった個人属性や、特定の目的地(駅やスーパーマーケットといった生活関連施設)への空間的な距離および認知的アクセシビリティといった変数と相関していることを明らかにした。さらに、受入研究者および関連分野での研究者と連携し、アクセシビリティに関わる全国的な空間データ整備にも取り組み、これと上記の研究成果との接合に向けた議論も始めており、既に学会発表を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症に伴う各種の制約や、前年度までの調査の設計・打ち合わせ等にかかる時間が当初予定より多少変動したことがあり、当初計画から若干の変更はあった。しかしながら、研究実績の概要で述べた通り、研究課題の趣旨をおおむね変えない範囲において、研究は進捗している。本研究課題の所期の目標は、GISやオンラインサーベイによる意識調査等を活用し、「どのような活動機会への」「どのような方法で測定した」アクセシビリティが、「どのような人の」主観的な生活の質や幸福度により大きく影響するかを解明し、近年のアクセシビリティ上の社会問題の本質の所在を、個人レベルと地域レベルに切り分けて考察することであった。これに対応し、新規性のある成果を英文査読誌や学会において公表することができている。また、次年度以降の研究のベースともなる空間データ整備も、国の基幹統計の公表スケジュールに制約されているところはややあるが、基本的に順調に進展している。こうした取組みの中で、今後取り組むべき新たな分析視角を検討し提示することもできており、本年度も引き続き、理論と実践の両面において有意義な進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究成果の中で提案した「アクセシビリティの総体的感覚」、すなわち日常生活の中で必要なもの、あるいは望まれるものに、全体として大きな不便なくアクセスできると感じているかという指標に関する研究は、学界全体をみてもまだ緒についたばかりである。何らかのモノやサービス、場所などにアクセスしやすいかどうかは、距離や所要時間といった空間的側面と、実際にアクセスする個人の属性や認知の両側から分析し、理解を深めることが必要であると学界では認識されている。また、空間的なアクセシビリティと認知的アクセシビリティの関係についても、アクセシビリティ関連の研究では重要な検討課題とされている。研究代表者らは、すでに一定の知見を報告してはいるものの、アクセシビリティに関する既往研究は膨大であり、すでに定評ある指標も少なくない(たとえば、WalkScoreをはじめとするウォーカビリティ指標)。既に実施したオンラインサーベイの結果をさらに高度に活用しつつ、現在進めている全国規模での空間データ整備を推進することで、本研究課題の遂行を図ることはもちろん、地理学と関連分野における重要な検討課題に対しても貢献することを目指す。
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