2020 Fiscal Year Annual Research Report
概日時計が概日である意義:水田ウキクサ開花時期の多様化・局所適応からの実証
Project/Area Number |
20J00255
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
村中 智明 鹿児島大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 光周性 / 概日時計 / アオウキクサ / 発光レポーター / 局所適応 / 緯度クライン |
Outline of Annual Research Achievements |
アオウキクサは短日条件で花成が誘導される光周性を示し、1週間で花芽が形成されるなど反応が早い。限界日長の局所適応を明らかとするために、全国からアオウキクサ系統の単離を進めてきたが、北海道、滋賀県、兵庫県、鹿児島県から単離した各11-12系統について、限界日長と概日リズム周期の決定を行った。限界日長は短日処理1週間後の花芽の数をカウントすることで、概日リズム周期はジーンガン法による発光レポーター導入による概日リズム測定により行った。限界日長と概日リズム周期には負の相関が見られた。光周性は概日時計による日長認識を基盤としているため、概日リズム周期の変化により日長応答性が変化することは実験レベルでは確認されていた。このことを野外集団で実証したことは概日時計の周期多様性が適応進化にもたらす影響について、重要な知見であると考えている。 限界日長の多様化について、分子実体を明らかとするために、純系化した標準系統であるNd系統で短日条件での日周サンプリングを行い、RNA-seqに供した。その結果、花成ホルモンであるFTのホモログのひとつが暗期11時間以降のみで発現することを見出した。このFTホモログは限界日長が異なる系統では、発現上昇するタイミングが異なることをqPCRにより確認した。さらに、発現上昇タイミングの変化は、限界日長の変化とよく整合していた。このことから、当該FTホモログが限界日長決定に重要であると考え、解析を進めている。 定期調査の準備として、鹿児島県内のアオウキクサの分布状況を調べ、湛水時期が大きく異るが約10kmと隣接し、アオウキクサが豊富にいる水田地帯を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アオウキクサの限界日長および概日リズム周期の多様性を明らかとするために、北海道、滋賀県、兵庫県、鹿児島県から単離した各11-12系統について、限界日長と概日リズム周期の決定を行った。その結果、集団間の分化と、限界日長と概日リズム周期の相関を示すことができた。北海道集団は限界日長が長く、鹿児島集団は限界日長が短かった。兵庫集団の限界日長は北海道と鹿児島の中間程度であったが、滋賀集団では北海道よりも限界日長が長かった。兵庫集団は山田錦、滋賀集団はコシヒカリを栽培する水田から単離しており、コシヒカリの収穫時期が8月末と早いことが、滋賀系統の長い限界日長(早咲き)と関連すると考えている。このように多様性が認められたが、ゲノムサイズは調べたすべての系統で約0.8Gであり、種内分化であることが示唆されている。新型コロナ感染症のため、実験の開始が遅くなったために、当初の予定よりも集団数が少ないが、環境が整ったため、予定していた規模で解析を進める予定である。 短日条件での日周RNA-seqにより、短日で誘導される花成ホルモン遺伝子のホモログを見出すことに成功した。この遺伝子は暗期の10時間以降に発現してくるが、限界日長の異なる系統では、誘導されるタイミングが異なり、限界日長とよく整合する。このように着目すべき遺伝子を発見したことで、今後の研究計画の見通しがよくなる。こちらは期待以上の成果だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、20近い集団から単離したアオウキクサ系統群を維持しており、こちらの限界日長決定と概日リズム周期決定を進めていく。また、96系統を選び、RAD-seq法によるゲノムの多型解析を行う。形質データと合わせすることで、多様化に重要なゲノム領域が見いだされることが期待できる。 RNA-seqにより見いだされた花成ホルモン遺伝子のホモログについて、花成誘導能力があるかをシロイヌナズナでの過剰発現ににより検証する。暗期の開始から発現誘導されるまでの約12時間に限界日長の多様化の鍵があると考えられるため、RNA-seqにより系統間の差異の解析を進める。 昨年度までに下見を終えた鹿児島県内の水田について、毎週調査を行い、アオウキクサの生育状況や花芽の有無を確認することで、生活史を明らかとする。
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Research Products
(5 results)