2020 Fiscal Year Annual Research Report
べん毛モーター固定子の構造変化により生じるエネルギー変換機構の解明
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20J00329
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
錦野 達郎 大阪大学, 大阪大学蛋白質研究所, 特別研究員(PD) (80884428)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | べん毛モーター / 固定子複合体 / イオンチャネル / 単粒子解析 / 溶液NMR / 回転子 / FliG |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌の運動器官の一つであるべん毛は、自身が時計回り及び反時計回りに回転するモーターをもつ。モーターは自身が回転する「回転子」と回転子の周りに集合しイオンチャネルとして機能する「固定子」の2種類の複合体から成る。モーターの回転は、固定子への共役イオンの流入とカップルした回転子と固定子の適切な相互作用により、膜内外に形成される電気化学ポテンシャル差が運動エネルギーに変換されることで生じる。AサブユニットとBサブユニットの2種類の膜タンパク質からなる固定子複合体は、本研究を申請する時点で構造が解かれておらず、トルクを形成する際のエネルギー変換の理解には、複合体の構造情報を取得する必要があった。2020年になり、海外の2つのグループによって、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析による固定子複合体構造が明らかになった。しかしながら、エネルギー変換の際の複合体の構造変化や共役イオンの通り道は未だによくわかっていない。 我々は、これらを明らかにするためにNa+チャネルであり、変異体解析の知見が豊富な海洋性ビブリオ菌の固定子複合体[PomA/PomB]の構造情報を単粒子解析と溶液NMR法により取得することを目的としている。 溶液NMR法では、申請者自身がNMR測定のための試料調製や測定方法を学び、かつ、固定子回転子間相互作用の理解の下準備として、PomA/PomB複合体の相互作用相手である回転子タンパク質FliGの構造情報を取得した。 単粒子解析では、受入研究機関所属の加藤貴之博士、岸川淳一博士、廣瀬未果研究員の指導の下、解析に適したPomA/PomB複合体の試料の条件検討を進めた。並行して大阪大学大学院理学研究科所属の今田勝巳博士、竹川宜宏博士に供給をお願いした高度好熱菌Aquifex aeolicusの固定子AサブユニットMotA(AaMotA)の単粒子解析を行い、解析手法を習得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
溶液NMR測定用の試料として、ビブリオ菌FliGのMドメイン、Cドメインを含むFliGmc断片を用いた。野生型及び、モーターの回転が時計回りに偏る変異(G215A)をもつFliGmc断片の構造情報を比較することで、FliGの構造変化がモーターの回転方向を制御する分子メカニズムの解明に着手した。安定同位体や重水で標識したFliGmc試料を調製し、溶液NMR測定を行った。また、部位特異的なアミノ酸標識法を利用することで、Ile残基のメチル基やPhe残基の芳香環に由来する信号を観測するための試料調製と測定を行った。得られた結果は、野生型とG215A変異体の間でFliGの分子内の構造変化や分子間相互作用の変化が生じていることを示唆しており、それらがモーターの回転方向を決定していると考えられる。 単粒子解析では、PomA/PomB複合体試料の調製条件の検討とAaMotAの単粒子解析を進めた。PomA/PomB複合体は、これまでに、大腸菌で固定子を大量発現させ、その膜画分を界面活性剤DMNGを用いて可溶化し精製する方法が確立されている。この方法で試料を調製しクライオ条件で撮影したところ、試料の変性と凝集がみられた。試料の変性と凝集の改善のために、buffer条件やグリッドの素材を変更したところ、改善がみられているが、撮影に適した条件を見つけるまでには至っていない。AaMotAの解析では、クライオ条件で撮影に適したサンプルの条件を見つけることができ、粒子の撮影を行った。得られたデータと解析ソフトウェアRelion3.1を用いて、単粒子解析を進めた。その結果、5量体構造の密度マップを原子レベルの分解能で得ることができた。このマップを基にして、今田博士、竹川博士指導の下、AaMotA 5量体のモデル構造の構築と精密化を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
AaMotAの単粒子解析では、より高い分解能のマップを得るためのデータ撮影が終わっている。これらのデータの解析を行い、得られたマップをもちいて、モデル構造の精密化に挑戦する。また、現在得られているMotAのモデル構造に対して、東京工業大学生命理工学院所属の北尾彰朗博士の研究室との共同研究としてモデリングしたMotB構造を含んだMotA/MotB複合体の分子動力学シミュレーションを行うことで、イオン透過におけるAquifex固定子の構造変化の解析を進める。最終的には、単粒子解析により得られた構造情報と分子動力学シミュレーションの結果をまとめて、論文投稿を目指す。 海洋性ビブリオ菌固定子複合体の単粒子解析では、クライオ条件に適した試料調製の条件検討を継続して進める。精製に使用する界面活性剤の変更や、グリッドの素材の検討を行う。必要に応じて、精製のためのタグの位置の変更や、海洋性ビブリオ菌の近縁種で、同じくNa+チャネルとして機能するコレラ菌の固定子複合体試料の使用も視野に入れている。 溶液NMRによるFliGmc断片の構造情報の取得と解析では、データをまとめることで、論文投稿を目指す。また、これまでに得られた知見を参考にし、安定同位体標識したFliGに固定子複合体を混ぜて溶液NMR測定を行うことにより固定子回転子間相互作用の検出を目指す。並行して、NMR測定用の固定子試料の調製と信号の観測に着手する。手始めに15N標識した固定子複合体の精製を行い、測定を可能か検討する。必要であれば部位特異的なアミノ酸標識法を利用した信号測定の検討を行う。余裕があれば、PomAとPomBを個別に精製し、複合体の再構成が可能か検討することで、どちらかの分子のみ標識した固定子複合体試料が調製可能かを検討する。
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