2020 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of collective memory formative process based on resident's talk about disaster ruins
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20J00558
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
坂口 奈央 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 災害復興 / 災害遺構 / ライフコース / 漁村 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、査読論文2本執筆、掲載された。これら論文の概要は、次の通りである。 ①投稿論文『社会学研究』に掲載された論文は、災害遺構「船」を巡り、地元婦人会の女性が主張した背景について、彼女たちの生活史をもとに、ライフコース分析を行った。その結果、彼女たちの主張には、地域社会構造とりわけ漁業に規定された日常が大きく影響していることがわかった。 ②投稿論文『Journal of Disaster Research』に掲載された論文は、英語論文である。災害遺構の中でも論争に発展した「旧役場庁舎」を巡り、震災時60代男性に共通してみられた特徴的な語りの背景について、聞き取りおよび文献調査をもとに、分析・考察を行った。その結果、①同様、特に近代化によって発展したものの漁業形態の変容で、人びとの生活が大きく揺さぶられた経験が彼らの主張には大きく関係していること、また、災害遺構は地域社会の象徴的意味付与がなされていることが判明した。
これまでの災害遺構論は、遺構の活用方法に関した論理展開が多く、保存を前提としたものであった。こうした従来のとらえ方に対し、本研究では、被災当事者らがどのように災害遺構を意味づけているのか、また、災害遺構は被災当時の記憶を想起させる点が焦点化され、防災減災や伝承教育といった社会的価値が提示されるが、被災当事者らにとっての災害遺構とは、こうした外部者のまなざしとは異なる意味付与を行っていることを明らかにした。その上で、被災当事者らにとっての災害伝承のあり方について、再検討する必要があることを明示した。 この他、災害伝承をテーマに、東北大学の研究者らと、ジェンダーおよび多様な視点をふまえた災害伝承のあり方について共同調査を行い、ポスター発表も行ったところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の調査は、三陸沿岸の被災地にとどまったが、これまでメイン調査地であった岩手県大槌町だけでなく、岩手県大船渡市越喜来地区や、宮城県気仙沼市鹿折地区など、新たな調査対象地を開拓した。また聞き取り調査についても、各地区5名ほどずつ、複数回実施することができた。新たな災害遺構のあり方に対する住民の記憶や意味付与に関する考察を深めているところである。 また、投稿査読論文を2本作成し、掲載された。いずれも災害遺構を巡る住民間の対立を事例に、なぜ被災当事者らが災害遺構に対して特別な意味付与を行うのかについて、被災前の日常の記憶がどのように想起され、集合化されてきたのか、明らかにしたものである。 さらに、東北大学に所属する研究者4名とともに、2020年度から共同研究を始めた。本研究チームは、「災害伝承」および「地域社会における女性の参画、役割」について研究実績をもつ以下の5名で構成される。研究の目的は、災害伝承とは誰に向けてどのようにあるべきかを目的に、インパクトのある伝承だけでなく、誰もが共感できる災害伝承のあり方について、女性視点からアプローチする、というものである。近年被災地に相次いで新設された伝承施設には、「歴史」や「事実」に基づく教訓が、被災者や来訪者らによって集合的記憶化されていく場となりうる。また、社会的多様性を含みながら防災意識を高めていく、公的施設としての代表的役割を担う。こうした災害伝承施設で取り扱われる展示物などは、被災時のインパクトが焦点化され、また一般的な事象に関する展示にとどまっている。災害を介し、被災者そして外来者によって紡ぎあげていくはずの災害伝承に関する集合的記憶の変容に関して、共同研究を実践することは、本研究をより発展的に考察することにつながっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に実施した調査し判明した「新たな災害遺構」は、従来の災害遺構論に対して地平を拓くものと考える。従来の災害遺構研究では、被害の痕跡をとどめる人工構造物を対象としてきた。本研究の目的の基底にある「被災者にとっての災害遺構」という観点で調査を進めていくと、被害の痕跡をとどめる人工構造物だけが災害遺構ではないことが伺えた。それは、樹木など、津波被害を受けたのち、自然治癒力によって再生され、すでに被害の痕跡をとどめていない自然物を指す。被災地域に住む人びとは、東日本大震災から10年を迎えるこのタイミングで、災害遺構という被災の象徴を、自然物のように「生き残ったもの」、また生命を感じさせる対象物を「復興の記憶」として、そしてポジティブに住民同士で語り合い、新たな集合的記憶が生成されている。こうした論点の発見は、被災者への長期にわたる継続的な聞き取り調査によって得られたものである。 2021年度は、被災者だからこそ意味づける新たな災害遺構に関する考察を、5月に行われる日本文化人類学会の分科会で発表する。この分科会のテーマは、「記憶と鎮魂を巡る新たな社会のあり方」である。そこで、本研究の理論的枠組みでもある集合的記憶の変遷および生成に関し、有益かつ示唆的なコメントを経ることが期待される。これらを踏まえて、今年度中に、査読論文を作成する予定である。
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Research Products
(3 results)