2021 Fiscal Year Annual Research Report
オス殺しウイルスの垂直伝播経路とオスだけを見分けて殺す分子機構の解明
Project/Area Number |
20J00562
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
長峯 啓佑 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | オス殺し / 共生ウイルス / 共生微生物 / 昆虫ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内共生細菌によるオス殺しは広く知られているが,‘共生ウイルス’が引き起こすオス殺しは研究例が極端に少なく,ウイルス性オス殺しの適応的意義や分子機構は明らかにされていない.本研究ではハスモンヨトウ(以下,ハスモン)で発見されたオス殺しウイルスを用いて,①父性伝播の可能性の検証,②ウイルス性オス殺しの分子機構の解明を目的としている.これらの進捗を以下に記す. ①父性伝播の可能性の検証 ハスモンのオス殺しウイルスは母性伝播により次世代に維持され,宿主の胚期にオス殺しを起こす.また,実験下では人為的接種によるオス幼虫への水平伝播が可能であることから,野外においても感染オスの存在が想定される.父性伝播はウイルスにとって大きな進化的戦略となりうるため,人為的接種で作出した感染オス幼虫を用いてオス殺しウイルスの父性伝播の検証を試みた.予想外にも,オス殺しウイルスはオス幼虫へ感染した後,蛹期にオス殺しを起こすことが確認された.野外での水平伝播は共食いや寄生蜂による媒介など,卵期や幼虫期に起こり,蛹期や成虫期には起こりにくいと考えられる.そのため,野外では感染オス成虫が存在する可能性は低く,オス殺しウイルスが父性伝播する機会はないだろうと考えられる. ②ウイルス性オス殺しの分子機構の解明 オス殺しウイルスが標的とする宿主側の性特異的な生命現象として,性決定や遺伝子量補償が考えられる.オス殺しウイルスに感染したハスモンの胚において性決定機構を調査した結果,遺伝的オスは表現型としてもオスに性決定されていたことから(オス型doublesex遺伝子を発現),オス殺しウイルスは性決定を阻害しないことが示された.また,オス殺しウイルスが遺伝子量補償を阻害するか否かをqPCR法により検証したが,明瞭な結果は得られなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題ではウイルス性オス殺しの適応的意義と分子機構の解明を並行して進めている. 前者については,オス殺しウイルスに感染したオス成虫が野外に存在する可能性は極めて低いだろうとの結論が得られた. 後者については,オス殺しウイルスは宿主オスの性決定を阻害しないという結果が得られた.ハスモンと同じくチョウ目であるOstrinia属に感染するボルバキアは宿主オスの性決定を阻害する一方で,オス殺しウイルスはボルバキアとは異なるメカニズムでオスを殺していることが明らかになった. また,本研究の過程で,オス殺しウイルスは蛹期にもオス殺しを起こすことが見つかった.オス殺しウイルスは胚期と蛹期に共通し,かつ,オスに特異的な生命現象を標的とする可能性が高いと考えられる. これら,予想外の進展を含めた進捗を鑑みて「おおむね順調に進展している.」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
オス殺しウイルスは胚期と蛹期にオス殺しを起こすことが明らかになった.胚期と蛹期はともに劇的な形態学的・生理学的変化が起きるステージであり,性決定や遺伝子量補償が働くだけでなく,多くの性特異的な発生・分化が性決定の下流で誘導されると考えられる.よって次年度は,オス殺しウイルスが遺伝子量補償を標的とする可能性を検証するとともに,性決定の下流に位置する性特異的な発生が標的になる可能性を検証する.
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Research Products
(1 results)