2021 Fiscal Year Annual Research Report
Theory of hybrid speciation by sexual selection
Project/Area Number |
20J00583
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
香川 幸太郎 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 性選択 / 雑種形成 / 交雑帯 / 種分化 / 性的放散 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の開花時期、魚や昆虫の婚姻色、鳥の鳴き声、性フェロモンと受容体、生殖器の形状などの交配形質の集団間分化は、交配前隔離による種分化を導く。これまで、交配形質の進化はメスによる配偶相手のえり好み(異性間性淘汰)や、オス間のメスをめぐる闘争(同性間性淘汰)によって駆動されると言われてきた。さらに、異性間性淘汰による進化ではいくつもの異なる交配形質の組み合わせが進化的に安定となり得るため、性選択が異なる性形質を持つ集団の進化を促進しうることが指摘されてきた。しかし、たとえ性選択の下で進化が複数の代替安定状態を持ちうるとしても、異なる安定状態を占める複数の種が進化する過程は自明ではない。なぜなら、新規交配形質を持つ新種が進化するためには新規交配形質が生じて集団に定着する必要があるが、祖先型と交配できない(しにくい)変異体では繁殖に失敗するリスクが高まるため、新規交配形質の進化が妨げられるためである。その一方で、近年の研究から遺伝的に分化した系統間の雑種形成がしばしば新規交配形質を持つ雑種個体を生み出すことが報告されている。これらの知見を踏まえて、本研究では雑種形成を介した多様な表現型の創出と性選択の協働作用が新規性形質の進化を介した種分化を促進すると予想して、雑種集団の進化をコンピューター・プログラム上で再現するシミュレーションを行っている。その結果、多様な交配形質を持つ個体が混在する雑種集団では新規交配形質が繁殖適応度を下げる効果が緩和され、雑種形成に由来する遺伝的多様性が導く交配形質の偶発的な進化が促進されることで種分化が導かれうることが分かった。さらに、親系統の分布域が衝突する地点で雑種形成が絶えず起こり続ける「交雑帯」では、親種からの遺伝子流動が続く限り表現型の偶発的進化が促進され続け、この過程が繰り返されるといつかは新規交配形質が進化して種分化が成立することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に行った、単一の雑種集団の中で単一の交配形質が進化するという単純な場合のシミュレーションによって、本研究で提案する理論の中核は概ね完成している。2021年度は、雑種形成と性選択が生み出すより大きなスケールの進化を調べるために、前年度に構築したシミュレーションに対する次の拡張を試みた:(1)交雑帯地域が空間的な広がりを持ち、雑種集団中に複数の局所集団が存在する場合への拡張、(2)複数の交配形質が進化する場合への拡張。(1)の拡張を行った結果、研究の構想時に予想していた通り、特定の地理的・歴史的・生物的条件の下では雑種集団中の各局所集団で異なる交配形質が固定化し、たくさんの種が急速に進化しうることが分かった。一方で(2)の拡張では、雑種形成が起きない場合の進化動態が過去の理論研究の結果と食い違うという予想外の結果が得られた。その理由を精査した結果、過去の理論の多くは(A)集団のサイズが無限に大きい、(B)交配形質の相加的遺伝分散が変化しないなどの理想条件を想定しているが、これらの条件が成立しない状況では、過去の理論の予測が必ずしも成り立たないことが分かってきた。そのため、当初の研究計画を外れることとなったが、性選択が導く基本的な進化動態の把握や、性選択が複数の代替安定状態を生み出す条件の探索に多くの時間を費やすこととなった(その結果得られた成果は、性選択理論に関するレビュー論文のフォーマットで発表予定であり、現在論文を執筆中)。また、2021年度は2020年度までに得られた成果をまとめた論文を専門誌に投稿する作業に多大な時間を費やした。残念ながら2021年度中には論文の受理に至らなかったが、投稿と改定を繰り返す過程で論文の質を大きく高めることができた。上記の通り、当初の計画から多少の軌道修正を余儀なくされたが、一定の研究成果は得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に行った研究から、性選択による進化が交配形質の絶え間ない進化を導き、交配形質が進化的に安定な状態へと収束しないという進化動態が、これまでの理論で考えられていたよりも起こりやすいことが示唆された。さらに、性選択による進化が複数の代替安定状態を持つかどうかは、交配形質をコントロールする遺伝的な仕組みや、遺伝子型とメスの配偶者選考性が対応づけられる仕組みに依存することも分かってきた。2022年度は、まず遺伝子の多面発現やエピスタシスが有限集団における性選択の帰結に与える影響を理論的に把握する。その後、雑種形成が遺伝子相互作用ネットワークの大規模な変化による進化を導く状況をシミュレーションし、雑種形成と性選択が複数の交配形質の進化を通じて多様な種の進化を導くという予想をテストする予定である。また、性選択による雑種種分化の理論の中核をなす、性選択の下で交配形質の進化が複数の代替安定状態を持つという予想をテストするための実証研究を行う。具体的には、性選択が交配形質の進化を促進していると考えられるオビハエトリ属のクモ3種を対象に、性選択を通じた交配形質の多様化、種分化、交雑のパターンを野外調査と遺伝子配列の解析によって解明する。その結果に基づいて、交配形質の分化が種分化に与える影響を評価すると共に、交配形質の進化が交雑のような何らかのきっかけに伴って急速に進行するのか、それとも常に少しずつ変化し続けるのかを明らかにする構想である。
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Research Products
(4 results)