2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J00606
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小林 勇輝 立命館大学, OIC総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 明度知覚 / 錯視 / 心理物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
明度(物体表面の白黒濃淡)の知覚と,高次処理の関連性を明らかにすることが本研究の目的である。申請者は画像の倒立によって知覚明度が変化する現象を見出し,昨年度までにこの現象に関して生起要因の研究を行ってきた。その中では,倒立の効果が「画像の三次元的な情報に対する高次な処理」と,「二次元的情報に対する低次な処理」の両方によって生じるものであることが示されてきた。今年度はこの実験結果に関してより精緻な議論を進めながら,対外的な発表を行ってきた。 さらに,異なる視点として,知覚的群化という高次処理が明度知覚に及ぼす影響について研究を進めてきた。具体的には,「反転対比」と呼ばれる明度錯視現象に関して,その生起機序を数理モデルによる表現を用いて理論的に研究を行った。明度知覚は多くの場合において「明るい背景に囲まれた領域は暗く見え,暗い背景に囲まれた領域は明るく見える」という明度対比によって決定される。しかしながら,ときに「明るい背景に囲まれた領域が,暗い背景に囲まれた等輝度領域よりも明るく見える」という反転対比の現象が生じることがある。これは知覚的群化が明度知覚に関与しているケースとして解釈されているものの,群化という処理の曖昧性によって,その関与の過程を量的に論じることが難しい。本年度は,この過程を客観的に議論するべく,反転対比を説明する数理モデルの構築を目指し研究を行ってきた。近年報告された,複雑な確率モデル表現手法に基づく明度知覚モデルを改良して,一部の反転対比を説明できるモデルのプロトタイプを構築することができた。当該モデルは,これまでに質的に議論されてきたゲシュタルト的心理過程に関して,より精緻な議論を可能にするものと期待される。今後の議論によって,このモデルをいっそう精緻化していくことが求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明度知覚過程をより精緻に理解するためには,数理的なモデルに基づく客観的な議論が不可欠である。しかしながら,反転対比の現象を正しく予測できる数理モデルはこれまでに数えるほどしか報告されてきておらず,明度知覚における高次処理の関与過程を量的に議論することは難しかった。今回,本研究においては,比較的高次の処理過程を表現することを目的として構築された,新たな明度知覚モデルをベースとして,代表的な反転対比現象であるホワイト錯視を説明するための改良モデルを構築した。モデル構築とモデルテストには想定以上の期間を要したものの,この成果は高次処理と明度知覚の関連を議論する土台としても非常に有用であると考えられる。また,新規性の高い明度知覚モデルの枠組みをベースとしてモデル改良を行った本研究は,当該枠組みの発展可能性を強く示す成果となった。これらのことから,本年度の成果を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,反転対比の予測を目的とした明度知覚モデルの改良の成果について対外的に発表し,議論を進めていく。また,これまでに報告された明度錯視とその説明理論について改めて情報を収集し,新たに報告するモデルと既存モデルの比較に用いるべき錯視についてさらなる示唆を得ていく。また,倒立錯視を生起させる一因であると考えられる光源仮定処理について,形状知覚実験のデータの再分析を通してより精緻な解釈を行うことを目指す。これらを通して,知覚的群化と光源仮定の両面から高次処理と明度知覚の関連を研究していく予定である。
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