2020 Fiscal Year Annual Research Report
Stable carbon and nitrogen isotope discriminations in aquatic ecosystems
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20J00607
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大西 雄二 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 琵琶湖 / 安定同位体 / 核酸 / リン / 遡上魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物体に含まれる核酸の濃度定量と炭素窒素安定同位体比測定のための手法開発を行った。まず、従来の元素分析計連結型質量分析計(EA-IRMS)の簡易的な改良により、微量試料での安定同位体比測定手法を確立した。次にバクテリア試料を用いて、安定同位体比測定に適した核酸抽出法の検討を行った。複数の市販の核酸抽出キットを使用し、それぞれの抽出物のDNA, RNA濃度測定と、上記の微量分析法での炭素窒素安定同位体比測定を行なった。その結果、ISOPLANTという抽出キットではタンパク質の除去効率・RNAの回収効率が高かった。この抽出物の安定同位体比を測定すると、窒素に関しては菌体の同位体比よりも約7‰低く、その差は安定していた。従って、ISOPLANT抽出によりバクテリアRNAの窒素同位体比が測定できていると考えられた。 生物体のリン濃度を測定するための改良湿式酸化法の開発を行った。酸化試薬中のペルオキソ二硫酸カリウム濃度とpH調整のための水酸化ナトリウム濃度を調整した試薬を作成し、リン濃度既知の標準動物・植物試料を用いてリン回収率を評価した。その結果、0.15 M NaOHかつ4% K2S2O8濃度の酸化試薬を用いることで、動物・植物試料ともにほぼ完全なリンの回収を実現した。 滋賀県内の3河川にて河川水・懸濁物・底生藻類・水生昆虫・魚類のサンプリングを行った。調査の結果、8月のハス遡上期にはハス密度の高い下流域で栄養塩濃度が高くなっていた。また溶存有機物の3D-EEM分析を行うとヤナ下流ではタンパク質様物質の明瞭なピークが検出され、遡上魚に由来する物質の付加が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、4、5月の緊急事態宣言の折に、約1ヶ月の勤務先の閉鎖によりサンプリング、試料処理、測定などの作業が全て停止した。また、その後も県外への調査・出張を見送らざるを得ない状況が続いたため、当初の研究計画をかなり変更せざるを得なかった。そのため今年度は、主に室内実験による手法の開発などを中心に取り組んだ。 手法開発の一つとして核酸の安定同位体比測定手法の開発に取り組んだ。その成果の一部を論文として1報、学会発表として2件の公表を行なった。また生物のリン濃度測定手法の開発も行い、その成果は現在投稿し査読中である。8月と2月には滋賀県内の3河川で野外調査を行った。その成果の一部を学会発表として1件の公表を行なった。 上記のように、計画を変更したため予定通りの研究を遂行することはできなかったが、採用期間内に行う予定であった室内実験・手法開発を中心に行うことで論文として2報(1報は査読中)、学会発表2件の報告を行うことができ、また野外調査の結果として1件の学会発表を行うことができた。そのため、研究計画の大幅な変更を行なったが、総合的な達成度を鑑みて「おおむね順調に進展している」との評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年に引き続き、滋賀県内の琵琶湖流入河川での野外実験・調査を実施する。まず、琵琶湖に生息するいくつかの種の魚類を捕獲・一定時間飼育することで、魚類のアンモニウム・リン酸イオン排泄速度と排泄物のアンモニウム/リン酸比(N/P比)を求める。また、そのアンモニウムの窒素同位体比も測定する。この結果と魚体の窒素/リン比(N/P比)や窒素同位体比と比較することで、排泄に伴う窒素同位体濃縮とN/P比との関係を明らかにするだけでなく、魚種間の違いについても考察する。次に、昨年・本年度に行う野外調査で採取した河川水のアンモニウム・リン酸濃度・アンモニウムの窒素同位体比を測定することで、河川水中栄養塩濃度における魚類排泄物に由来するものの割合を明らかにする。その上で、河川から採取した藻類や水生昆虫の炭素・窒素同位体比を測定し、河川生態系構造を復元し、その生態系構造内での魚類由来栄養塩の生物群集へのフラックスを見積もる。これらを季節ごとに行うことで、遡上魚による河川生態系への物質輸送や生態系構造への影響と魚種によるそれらの効果(大きさや作用機序)の違いを明らかにする。以上の結果から、魚類の排泄により輸送・供給される栄養塩の観点から河川生態系機能における魚種の多様性の重要性を議論する。
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