2021 Fiscal Year Annual Research Report
Stable carbon and nitrogen isotope discriminations in aquatic ecosystems
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20J00607
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大西 雄二 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 遡上魚 / 琵琶湖 / 生態化学量論 / 安定同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物体のリン濃度を測定するための改良湿式酸化法の開発を行った。酸化試薬中のペルオキソ二硫酸カリウム濃度とpH調整のための水酸化ナトリウム濃度を調整した試薬を作成し、リン濃度既知の標準動物・植物試料を用いてリン回収率を評価した。作業時間短縮のためオートクレーブ時間は30 minで湿式酸化を行った。その結果、0.15 M NaOHかつ4% ペルオキソ二硫酸カリウム濃度の酸化試薬を用いることで、動物・植物試料ともにほぼ完全なリンの回収を実現した。この手法は、微量試料(0.2 mg-sample)で測定可能で、簡便・安全であり、さらにこれまで湿式酸化によるリン測定が行われてこなかった植物試料にも適用可能であった。これらの成果はAnalytical Sciences誌に掲載された。 4月、7月、9月、11月に滋賀県内の知内川・安曇川・姉川・大川・鵜川にて河川水・懸濁物・底生藻類・水生昆虫・魚類のサンプリングを行った。フィールドサンプリングと並行して、琵琶湖からの遡上魚の飼育実験を行った。飼育実験の結果、遡上魚により排泄されるアンモニウムイオンが特徴的な高い窒素同位体比を持つことを明らかにした。その上で、河川水アンモニウムの窒素同位体比測定から、夏季に琵琶湖からの遡上魚の排泄によって河川のアンモニウム濃度が上昇していることが明らかとなった。さらにこの高い窒素同位体比を持つアンモニウムが底生藻類とさらに上位の底生動物にまで取り込まれていることを明らかにした。これらの結果は、「水圏における高い窒素同位体比を持つ窒素化合物は人為起源である」というこれまでの常識に疑問を投げかけるような成果である。アンモニウムの窒素同位体比測定はこれまでほとんど行われておらず、特に魚類の排泄アンモニウムを測定した研究はこれまで行われていない。これら成果により2件の学会発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染拡大により当初の研究計画を変更せざるを得ない状況が続いた。しかし、目的の一つであるリン測定法の開発に成功し、学術誌に掲載することができた。4月、7月、9月、11月には滋賀県内の4河川で野外調査を行った。その成果の一部を学会発表として3件の公表を行い、論文として1件投稿し現在査読中である。 上記のように、計画を変更したため予定通りの研究を遂行することはできなかったが、採用期間内に行う予定であった手法開発で論文として1報、また野外調査の結果として3件の学会発表を行うことができた。そのため、研究計画の 大幅な変更を行なったが、総合的な達成度を鑑みて「おおむね順調に進展している」との評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、魚類の排泄に伴う窒素同位体濃縮とN/P比との関係を明らかにする目的で、飼育実験系を構築する。琵琶湖に生息するいくつかの種の魚類を一定時間飼育することで、魚類のアンモニウム・リン酸イオン排泄速度と排泄物のアンモニウム/リン酸比(N/P比)を求める。また、その排泄されるアンモニウムだけでなく溶存有機窒素や懸濁態窒素の窒素同位体比も測定する。 次に、昨年・本年度に行う野外調査で採取した河川水のアンモニウムやリン酸濃度とそれらの元素比や同位体比と底生藻類の元素比や同位体比を測定することで、河川生態系において、魚類排泄物が与える影響や魚類から生態系への物質フラックスを定量化する。これらを季節ごとに行うことで、遡上魚による河川生態系への物質輸送や生態系構造への影響と魚種によるそれらの効果(大きさや作用機序)の違いを明らかにする。以上の結果を飼育実験で得られる結果と合わせて、魚類の排泄により輸送・供給される栄養塩の観点から河川生態系機能における魚種の多様性の重要性を議論する。
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