2020 Fiscal Year Annual Research Report
高齢者の転倒に対する効果的な介入方法の開発:神経生理学的側面に着目して
Project/Area Number |
20J00622
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山縣 桃子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 確率共振 / 立位姿勢制御 / 体性感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的:立位姿勢制御能力の向上は転倒を予防するために重要である。これまで、ホワイトノイズ様の微弱な電気ノイズ刺激を体性感覚に印加することで、立位時の姿勢制御能力が向上することが明らかになっている。これは確率共振と呼ばれる現象に関連しており、この現象を増強させることは、転倒予防に向けて効果的な介入方法を確立するために重要であると考えた。確率共振の効果はノイズの周波数特性によって異なるため、本研究では、ホワイトノイズ様の電気ノイズ刺激に加え、ピンクノイズとカオス様の信号を有した電気ノイズ刺激を用い、これらの電気ノイズ刺激が立位中の姿勢制御に与える影響を調査した。 研究方法:対象は健常若年者16名(男性8名、女性8名)とした。対象者は閉眼立位を40秒間行い、ノイズ刺激を与えない条件に加え、ホワイトノイズ様の刺激を与える条件、ピンクノイズ様の刺激を与える条件、カオス様の刺激を与える条件の計4条件を7セット実施した。足圧中心によって立位姿勢制御能力を評価し、各ノイズ刺激は両側の膝関節裂隙に感覚閾値の50%で印加した。 研究成果:ノイズ刺激を与えない条件と比べ、ピンクノイズ様の刺激を与えた場合に足圧中心の二乗平均平方根の値が有意に低下することが明らかになった。ホワイトノイズやカオス様の刺激では、足圧中心の評価値に有意な変化は認められなかった。 意義:本研究では、ホワイトノイズやカオス様の電気ノイズ刺激に比べ、ピンクノイズ様の電気ノイズ刺激が確率共振を効果的に引き起こし、健常若年者の立位姿勢制御能力を向上させることが明らかになった。転倒予防に関する新たな方法の確立に向けて、本研究は重要な基礎情報を提供したと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、所属研究機関の研究倫理審査委員会に本研究計画の申請を行い、研究実施の承認を得た。 次に、本研究における実験系を確立するため、測定機器と同期可能な電気刺激制御系の構築を行った。同時に、任意なノイズ波形及びカオス波形を作成可能なソフトウエアを構築し、これら波形を安全かつ効果的にヒトの体性感覚に印加するために、周波数帯域や合成パルス波形特性について予備的実験を繰り返しながら最適化を行った。 以上から確立された実験系を用いて、異なる刺激波形による体性感覚への閾値以下微弱電気刺激が静的立位バランスへ与える効果を、対象者16名に対して検証した。その結果、ピンクノイズを体性感覚に印加した場合に、最もバランス安定効果が得られることが明らかになった。この結果は、確率共振を応用したバランス安定化について、より効果的な刺激波形特性を新たに明らかにしたという点で、基礎科学的のみならずリハビリテーションへの応用という観点からも大変意義のある結果である。現在、本結果をGait & Posture誌に原著論文として投稿予定であり、原稿作成の最終段階にある。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ピンクノイズ様の電気ノイズ刺激が、立位時だけでなく、歩行時の安定性も向上させるかを調査する予定である。また同時に、電気ノイズ刺激の実用化に向けて、持ち運び可能な電気ノイズ刺激装置を製作する予定である。 受入研究員や大学院生と討論し、上記で得られた研究結果の解釈を深め、学会発表や論文投稿に向けて取り組む予定である。今後は、地域在住高齢者や有疾患者に対してもピンクノイズ様の電気ノイズ刺激が有用かを検証し、さらにこのようなノイズ刺激によって実際に将来の転倒を予防できるかを明らかにする。
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