2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J00697
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
村上 悠 近畿大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ゲノム編集 / メダカ / イノシン酸 / 呈味向上 / 水産育種 / ノックアウト / CRISPR/Cas system |
Outline of Annual Research Achievements |
農作物や畜産物と比較し、水産物の育種は大きく立ち遅れている。そのような状況の中、ゲノム編集技術CRISPR/Cas systemは、これまでにマダイ等の養殖魚において育種の劇的なスピードアップを実証してきた。しかしながら現時点では、同技術によって魚類育種を促進できる候補遺伝子の数が限られているため、新たな候補遺伝子の同定、および当該遺伝子の改変による有用形質の模索が切望されている。 本研究では、CRISPR/Cas systemを魚類へ適用し、旨味成分として広く知られるイノシン酸(IMP)の増量化を試みている。具体的な計画としては、イノシン酸の分解を担う分子種を特定したのち、当該遺伝子をノックアウト(KO)することによって目的の達成を目指す。本研究ではメダカを中心に用いて基礎的知見を集積し、得られた成果を養殖魚に応用することを想定している。すなわち本計画を完遂すれば、呈味を向上した水産物の生産が可能となる。初年度は主な実験材料として大腸菌とメダカを用い、I)イノシン酸分解酵素の特定、およびII)候補遺伝子のKO系統の樹立に注力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
I)については、比較ゲノム解析によって選定した複数の候補遺伝子のクローニングを実施し、大腸菌を使って組換えタンパク質を合成した。しかしその多くが菌内の封入体に取り込まれ、不溶性タンパク質として発現した。一方、当該遺伝子をコードする核酸をメダカ胚へ導入し、目的タンパク質を過剰発現させる実験系も構築した。 II)については、当該遺伝子のコード配列へ変異を導入した親魚(G0)を作出した。G0は野生型と交配し、得られた次世代(F1)についてHeteroduplex Mobility Assay(HMA)解析、および塩基配列解析を実施した。一部のF1個体でヘテロ型の欠失を示す結果が得られ、目的通り系統化に成功した。 I)は当初よりも遅れているが、II)は順調に進行したことを加味し、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
Ⅰ)については、大腸菌株の変更・培養条件の調整・シャペロンの共発現などを通じ、可溶性タンパク質として発現させるための諸条件を検討していく。発現条件の検討を完了したのちは、目的タンパク質を精製・単離し、IMP分解活性をin vitro下で評価していく方針である。なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたATP関連化合物の定量系は既に確立できているため、単離後の分解活性の評価は円滑に進めることできるものと想定している。一方、メダカ胚を用いた実験では、目的遺伝子の発現の指標となる緑色蛍光を胚体内で確認することができた。目的遺伝子の上流にはHisタグ配列を付与しているため、今後は目的タンパク質の単離・精製を試みる。 Ⅱ)については、F1ヘテロ変異体同士の交配によって、ホモ変異体・ヘテロ変異体・野生型のそれぞれを確保し、各魚体内のIMPをHPLCによって定量する。本定量は屠殺直後から死後1週間程度に至るまで継時的に実施し、変異体と野生型間のIMP含量を比較する予定である。仮説通りに進行すれば、変異体のIMP含量は野生型よりも多くなることが見込まれる。
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