2020 Fiscal Year Annual Research Report
第二次世界大戦後のケニアにおける越境性動物疾病対策と国家統治の変容
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20J00738
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
楠 和樹 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | アフリカ / 国家 / 統治性 / 牛疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は現地の調査補助会社を通じて収集された資料をもとに、20世紀初頭から1960年代までのケニアにおける牛疫対策の変遷を分析した。 牛疫はもっとも危険な動物感染症のひとつであり、ヨーロッパ諸国では18世紀以降大規模な流行が繰り返されていたものの、獣医師の養成や国際会議の開催などの対応が整備された結果、20世紀初頭までにはほぼ撲滅されていた。それに対して、ケニアをふくむアフリカの国々に牛疫のウイルスが到来した時期は比較的遅く、その制圧にもより多くの時間がかかった。牛疫はケニアで19世紀末からたびたび発生し、2001年に最後の事例が報告されるまで、とくに家畜への依存度の高い生活を送っていた牧畜民に深刻な被害をもたらしていた。2011年にFAO(国際連合食糧農業機関)が世界的な撲滅を宣言するに至るプロセスは、従来は科学研究と国際的な取り組みの協調が推進される単線的なナラティブとして位置づけられてきた。それに対して、本研究ではその制圧に向けた制度が知識がどのように形成されたのかという点に焦点を当て、とくに第二次世界大戦後に構築されたIBED(アフリカ動物感染症局;現在のAU―IBAR(アフリカ連合・動物資源局))を中心とした国際的な技術援助の枠組みについて検討した。また、ケニア南部のカジァド・カウンティでは聞き取り調査もおこない、過去の流行時の状況や、ワクチン接種などの対策の受け止めかたなどについて口述資料を収集した。この調査は現時点では予備的な段階に留まっているが、次年度以降は牛疫対策が推進されるなかで牧畜民の家畜や環境との関係、文化、宗教的な信念が総体的にどのように再編されていったのかという点について、フィールドワークによってより詳しく検討していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はイギリスとフランスにおける史料収集と、ケニアでの現地調査を予定していたが、新型コロナウイルスの流行の継続と個人的な理由のため、断念せざるを得なかった。そこで、当初の計画を変更し、現地の調査補助会社に過去の牛疫対策に関する調査請負を依頼し、資料を収集、整理した。また、イギリスについては調査を予定していた国立公文書館が電子化されたアーカイブの一部をオンラインで提供しはじめたことで、入手可能な範囲で必要な史料を収集、分析することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、渡航が可能な状況になり次第、ケニアでの現地調査をおこなう予定である。また、それが難しければ現地の調査補助会社を通じて資料収集をおこなうことも検討している。
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