2020 Fiscal Year Annual Research Report
生活綴方的教育方法の国際性―子どもの作文から世界を描き出す社会科教育の可能性―
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20J00780
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
須永 哲思 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 生活綴方 / 社会科教育 / エスペラント / 郷土教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、社会科用副教材『世界の子ども』(全15巻、平凡社、1955-57年)について、「吉田文書」(編集部内部の貴重な一次資料)を用いて当時の編集過程や所収作文内容の分析・考察を行い、日本の民間教育運動である「生活綴方的教育方法」が持った国際的な広がりの具体相を明らかにすること、子どもの「生活」における主体的な個別具体性と客観的な普遍性に同時に向き合う教育実践の可能性を追求すること、の2点である。 2020年度では、『世界の子ども』に関する研究の進展として、学振PD採用以前から進めてきた共同研究の成果の一部とあわせて、学術書籍1冊(駒込武編『生活綴方で編む「戦後史」―〈冷戦〉と〈越境〉の1950年代』岩波書店)が刊行された(第5章「『世界の子供』から『世界の子ども』へ―エスペラント運動と生活綴方運動の交錯」、第6章「『世界の子ども』の編集過程―世界の「生活」と「平和」をつなぐために」、コラム1「京都人文学園―『世界の子ども』の種が蒔かれた場所」を執筆)。 また、『世界の子ども』は、生活綴方運動を中心に、隣接する教育運動・社会運動(エスペラント運動や郷土教育・地域教育、社会科教育など)が結びつく中で結実したものであった。生活綴方運動の重要人物である国分一太郎が1950年代に提唱した「生活綴方的教育方法」について、当時の社会科教育・郷土教育の文脈で大きな影響を受けたのが、桑原正雄『郷土教育的教育方法』(1958年)だった。「歴史総合」「地理総合」など社会科系の新科目が導入される今日的な状況において、「他人の郷土」や「資本」の「環」というキーワードに象徴される桑原の「郷土」概念の独自性に改めて着目することの歴史的意義について、論じた(「郷土教育研究の意義と課題―郷土概念の変遷に見る〈他人の郷土〉と〈資本の環〉―」『新しい歴史学のために』第296号)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度では、新型コロナウィルスの影響で予定していた国内外への資料調査をほとんど行うことができず、研究計画を一部変更せざる得なかったところがあった。 ただ、PD採用以前から進めてきた研究成果とあわせて、共同研究の一部として学術書籍を出版することができた(駒込武編『生活綴方で編む「戦後史」―〈冷戦〉と〈越境〉の1950年代』岩波書店、2020年)。「吉田文書」の整理・目録作り・デジタル化作業は順当に進めることができており、デジタル化した資料については、「吉田文書アーカイブズ」(http://jshse.educ.kyoto-u.ac.jp/yoshida/)上で順次web上での公開を進めている。また、生活綴方の隣接領域である社会科・郷土教育などの研究・分析視角を深めることができた。 2020年度では、『世界の子ども』や生活綴方運動の研究を今後進展させていく上で土台となる作業を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に出版された学術書籍(『生活綴方で編む「戦後史」』)は、『世界の子ども』全15巻のうち、『中国・朝鮮篇』『フランス篇』の2巻に関わる内容のみをまとめたものであった。今後は他巻の研究・分析とそのための資料整理を行っていく予定である。 「吉田文書」の整理・デジタル化作業も、『中国・朝鮮篇』『フランス篇』に関する資料を中心的に進めてきたため、2021年度では、次に中心的に取り上げる巻を『東南アジア篇』『イギリス篇』と定め、それに関連する先行研究の渉猟・読解及び「吉田文書」の整理・デジタル化を進めていく。 また、コロナウィルスの感染状況次第だが、2020年度に実施できなかった資料調査を積極的に行いたい。
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