2021 Fiscal Year Annual Research Report
1740年から1780年までのドイツにおける交響曲の鳴り響きに関する研究
Project/Area Number |
20J00836
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
新林 一雄 国際基督教大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | オーケストラ / 18世紀 / 古典派 / ハイドン / モーツァルト / ベートーヴェン / 交響曲 / バッハ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1740年から1780年までのドイツの宮廷オーケストラによって生み出された交響曲の響きを明らかにすることである。この研究は、交響曲を盛んに演奏した13楽団を対象として、次の①から④までのことを調査する。 ①各楽団の楽器編成の解明では、楽団員の名簿に基づいて各楽器の人数を明らかにする。②楽団ごとの響きの特性の解明では、①の調査結果と演奏に使われた楽譜に基づいて表現方法を示す。③演奏場所の把握では、②の研究結果と演奏会場の規模の関連性を指摘する。④言説に基づく各楽団の特徴の解明では、②と③で明らかにした楽団の響きの違いを、当時のオーケストラの鳴り響きに関する言説に基づき一層明確にする。 2021年度は、主に上記の②の調査を行い、研究が2件の学会発表に採択された。今年度の研究では、さまざまな管楽器の編成によって13楽団それぞれが独特な響きを生み出していたことを、交響曲の楽器編成と作曲法から指摘できた。 それぞれの楽団が演奏した交響曲の楽器編成は、六つの傾向に分類できた。この調査では、13楽団の楽団員であった作曲家が楽団のために作った交響曲739曲を選び出し、その739曲の楽器編成を調べた。 13楽団それぞれは、楽器編成の傾向に基づいた、独自の楽器の組み合わせによる交響曲を演奏していた。交響曲では、曲が進む中でいろいろな楽器がさまざまに組み合わせられていく。調査では、曲に出てくるそれぞれの旋律を演奏する楽器の組み合わせを調べた。この管弦楽法の調査のために、ドイツの機関から、当時の楽団で筆写された楽譜の複写を取り寄せた。 13楽団に曲を書き送ったドイツ内外の音楽家の交響曲を調べた結果、彼らが書き送った曲は、送り先の楽団の楽器編成に適した曲になっていた。このことから、ドイツ内外の音楽家は13楽団それぞれの響きの特性を理解していたことを指摘できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度(2021年度)は、楽器編成の調査と楽曲分析から、研究対象とした13楽団の響きの大まかな傾向を明らかにできた。このことにより、研究目的(1740年から1780年までのドイツの宮廷オーケストラによって生み出された交響曲の響きを明らかにすること)を達成するための手がかりを得ることができた。さらに、今年度は研究の結果が二つの学会での発表につながったことから、この研究の成果がある程度認められたといえよう。また、研究結果の一部は、研究者本人が担当している音楽大学での大学院修士課程の講座で紹介することができ、ジュニア・オーケストラでのソルフェージュと音楽史の講座にも反映できた。これらのことを通して、研究成果の一部を社会に還元することができたといえよう。さらに、13楽団のうち、二つの楽団については研究成果を論文として発表する準備を進めている。 一方、研究一年目から行う予定であったドイツでの調査は、コロナ禍のために未だに一度も実行できていない。また、各楽団の響きは、2021年度に行った楽器編成の調査や楽曲分析以外の調査を行うことで、より具体的に示すことができる。 以上のことから、現在の進捗状況に対する評価は「おおむね順調に進展している」が妥当であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最後の年度となる2022年度は、13楽団の響きの傾向をより具体的に示すことを目指す。そのために、①日本国内でのより多角的な二次資料の調査、②ドイツでの一次資料の調査、③海外での論文発表を行いたい。 ①日本国内でのより多角的な二次資料の調査では、楽器編成と作曲家の書法に関する調査を継続するだけでなく、演奏場所や当時の言説、絵画などを調査し、できる限り多くの視点から具体的に各楽団の響きの特性を示すようにしたい。 ②ドイツでの一次資料の調査では、楽団のメンバー表や演奏に使われた楽譜、劇場の見取り図などを入手し、各楽団の響きの傾向をいっそう明確に示す資料を提示できるようにしたい。仮に海外への渡航が制限された場合でも、研究に関連する諸機関と今まで以上に連絡を取り、資料の複写を入手したい。 1740年から1780年頃までの交響曲はオーボエ2本とホルン2本を伴う傾向があったが、少なくとも、二つの楽団によって演奏された交響曲はその傾向と違う楽器編成になっている。③海外での論文発表では、この二つの楽団それぞれについて論文を執筆したい。残りの楽団についても、①や②の調査を行うことで、響きの傾向が明らかになり次第、その成果を学会発表や論文投稿に結び付けたい。
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