2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J00925
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
今村 聖路 神戸大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 概日時計 / サーカディアンリズム / 気分障害 / 鬱 / レジリエンス / ストレス / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
鬱の病態解明は現代医学・生命科学における喫緊の課題である。この謎を解く鍵として、ストレスに対する抵抗力と回復力の二面性をもたらすレジリエンスの概念が注目されている。一方、鬱などの気分障害は概日リズム異常と機能的に連関することが示唆されている。実際これまでに申請者らは、マウスへの慢性的なストレスが脳内のGSK3シグナルを活性化し、時計タンパク質PER2におけるリン酸化を亢進することを明らかにした。また、このリン酸化シグナルをブロックした変異マウスは、顕著な早寝・早起き型の行動リズムを示すとともに、慢性的なストレス負荷に対する抵抗生(レジリエンス)を発揮することを見出した。 ここで昨年度は、このストレスレジリエンスの分子機構に迫るべく、鬱との関連が示されている脳領域である前頭前皮質をPER2変異マウスより摘出し、対照群とともにRNA-seq解析に供した。野生型および変異型の遺伝子発現プロファイルの比較解析により、3,000種類以上の発現変動遺伝子群(DEGs)が浮上した。これらDEGsをジーンオントロジー解析に供したところ、睡眠や気分調節に関わる遺伝子群が有意に濃縮していることを明らかにした。野生型マウスに慢性的なストレスを負荷した際、それらのマウスはストレスに対する感受性を示す群(susceptible)と抵抗性を示す群(resilience)に分けられる。これら2群の既知RNA-seq データセットと、我々が得たRNA-seqデータを比較解析したところ、PER2変異マウスにおける遺伝子発現プロファイルはresilience群のそれに近似することが判明した。すなわち、PER2変異マウスPFCにおける遺伝子発現パターンは、既知のresilience型マウスのそれと類似しており、当該PER2変異マウスがレジリエンス様の表現型を示すことの分子的な裏付けが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の時点で計画していた通り、変異マウスにおける前頭前野を用いたトランスクリプトーム解析を展開し、時計タンパク質PER2における一塩基置換が遺伝子発現に与える影響をゲノム単位で解析することに成功した。また野生型マウスとの比較解析により、変異マウスにおける発現変動遺伝子群の抽出と、そのジーンオントロジー解析を無事に遂行した。さらに既知レジリエンスモデルマウスにおけるトランクリプトームデータセットとの比較解析により、当該PER2変異マウスがレジリエンス様の表現型を示すことの分子的な裏付けが示された。一方、一昨年より計画していたPER2変異細胞株の樹立、および、PER2リン酸化のプライミングキナーゼの同定までは至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果より、PER2変異マウスが睡眠相前進症候群、およびストレスレジリエンスの両方の表現型を示すことが明らかになった。また、当該PER2リン酸化シグナルが慢性的なストレスによって惹起されることが判明した。ところが、PER2リン酸化の分子的な機序については依然として不明な点が多い。例えば、当該リン酸化修飾を担う責任キナーゼについてはGSK3が有力視されているものの、確固としたエビデンスが不足している。また、本リン酸化反応には、先立って直近のセリン残基があらかじめ別のリン酸化酵素(プライミングキナーゼ)によって修飾される必要が強く示唆されているが、そのプライミングキナーゼの正体も不明である。一方、PER2リン酸化がPER2タンパク質の動態(安定性、局在、他タンパク質との相互作用など)に与える影響も不明な点が多い。これらPER2リン酸化シグナルにおける分子レベルでの研究は、当該シグ ナルがいかにして概日時計およびストレスレジリエンスに関わるのかを理解するために必須であると考えられる。 これまでに見出してきたPER2変異マウスにおける表現型、および今後予定している分子レベルの研究を併せ、本年度は研究成果を原著論文として投稿・受理されることを目指す。
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