2020 Fiscal Year Annual Research Report
リボソーマルRNA修飾を介した環境応答的な翻訳制御機構の解明
Project/Area Number |
20J00947
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石黒 健介 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | RNA修飾 / リボソーム / クライオ電子顕微鏡 / 翻訳制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、リボソームが環境に応じてダイナミックに組成を変化させ、翻訳や細胞の生育を制御することが示唆されつつある。しかし、その詳細な機構は依然としてほとんど明らかとなっていない。本研究では、申請者が大腸菌で同定した嫌気環境特異的な3つのrRNA修飾による翻訳制御機構の解明を進めた。採択前までの申請者の研究により、これらの修飾は嫌気環境依存的に修飾率が上昇し、リボソームの翻訳能を向上させて細胞の生育に寄与することが示唆されていた。 本年度の研究ではまず、これらの修飾が位置するペプチド転移反応活性中心(PTC)の周辺残基及びtRNAとの相互作用をCryo-EMにより解析した。その結果、PTC近傍で2.5オングストローム程度の解像度を持つ構造が得られ、3つの修飾の密度をはっきりと確認することができた。さらに、周囲の残基との相互作用を見ると、P-site tRNAの認識に関与する残基の近傍に位置し、その自由度を抑制するように作用していることが示唆された。また、3つの修飾の翻訳素過程に対する影響をin vitro反応系で解析したところ、翻訳開始過程には影響を与えない一方で、ペプチド転移反応を大きく向上させることが判明した。以上の結果は、3つの修飾がPTCの構造安定化を通じてリボソームのペプチド転移反応効率を向上させ、嫌気環境での細胞生育に貢献していることを示唆している。一方、リボソームプロファイリングによる解析では、修飾の有無による特定の遺伝子ないしコドン依存的な翻訳量の変化は確認できなかった。このことは、3つの修飾が特定の遺伝子やアミノ酸の翻訳速度を向上させるのではなく、翻訳速度全体を向上させることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画として、1,Cryo-EMによるリボソームの構造解析、2,in vitroでの翻訳素過程の解析、3,リボソームプロファイリング等による細胞内翻訳量の解析を並行して進めた。結果として、1については当初予定を前倒しする形でtRNAとリボソームの複合体の構造を測定することができた。また、最新型の電子顕微鏡であるTitan Kriosを用いることで、近年の論文と遜色のない高解像度の構造を得ることができた。2については、ストップド・フロー系を用いた速度論的な解析により翻訳開始段階と伸長段階をそれぞれ正確に評価することができた。以上、1及び2については当初予定よりも早く計画を進められている。3については、リボソームプロファイリングによる解析は当初予定通り進行した。一方で、SUNSET法による翻訳量解析は定量性や再現性がやや低く、現在SUNRISE法による細胞内翻訳伸長速度の定量解析を試みている。全体を通してみると、当初予定通りないし当初予定よりやや早く実験計画を進行することができていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度時点で完了していない細胞内翻訳伸長速度の解析を進める。また、当初計画通り、酸素濃度が急激に変化した際の3つの修飾率の変動及び、細胞内翻訳プロファイルの変化をLC/MSとリボソームプロファイリングを用いて解析する。一方、Cryo-EMを用いたリボソーム構造の解析については前年度の解析で完了したため、今年度は行わない。また、前年度のリボソームプロファイリング解析では特定のアミノ酸やコドンに対応した翻訳速度の上昇は確認されなかったため、これに関わるin vitro翻訳速度の解析は中止する。以上の実験の代わりとして、RlmOが酸素濃度に対応して鋭敏に活性を変化させる機構を構造学的見地から解明することを目指したい。また、RlmOの酵素活性についてin vitroですでに反応系を構築できているため、RlmOの反応機構及びRNA基質認識機構についても解析を進めようと計画している。
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