2020 Fiscal Year Annual Research Report
ブラックホール摂動時空の多次元写像解析による重力理論の検証に向けた研究
Project/Area Number |
20J00978
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
土田 怜 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 重力波 / ブラックホール / 重力理論 / データ解析 / KAGRA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的は,ブラックホールの準固有振動を抽出するための新たな重力波データ解析手法を開発し,それを重力波観測データに適用して一般相対性理論を代表とする重力理論の検証を行うとともに,他の物理学分野との関連を探求することである.その中でも2020年度は,「新たな重力波データ解析手法の開発」および「他の物理学分野との関連の探求」に着手した. まず前者については,ブラックホールの準固有振動から放出される重力波が複数の固有振動モードをもつ減衰正弦波となること,そして各モードの特徴的なパラメータである固有振動数と減衰時間がブラックホールの質量と回転に対応すること,という点に注目し,これらのパラメータを効率よく抽出するための数値計算コードを開発した.本コードを用いれば,ほぼ期待通りに減衰正弦波のパラメータを抽出することが可能であることが示された.さらに,準固有振動のみでなく,ブラックホールや中性子星から形成される連星系の合体から放出される重力波波形全体に対しても本手法を適用した.その結果,減衰正弦波のパラメータのみでなく,準固有振動に移行するタイミングを探り当てられる可能性も見出された.上記の結果について,学会にて報告した.現在,結果をまとめた論文を準備中である. また後者については,他の物理学分野との関連を調べるためのひとつとして,光に関する研究を進めた.非線形複屈折率をもつ媒質中を光が通過する際の,光の偏向状態や光渦の挙動について理論的考察を行った.得られた結果については,論文にまとめて報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的のひとつは,一般相対性理論を代表とする重力理論の検証を行うことであり,とくに研究の対象として注目しているのは,「準固有振動」と呼ばれるブラックホール特有の運動である. 現在までに,準固有振動により放出される重力波波形に相当する減衰正弦波波形から,各固有振動モードのパラメータを抽出するための解析コードの開発を行った.その結果,重力波の理論波形に対して本解析コードを用いることよって,ほぼ期待通りに各パラメータが抽出可能であることを示した.ブラックホールの準固有振動から放出される重力波には,そのブラックホールの性質を表す情報が含まれているため,その重力波を観測データから抜き出し,精度の良いパラメータ抽出を行うことは重力理論の検証において重要である.したがって本解析コードの開発は,非常に有用なものとなる.得られた結果については,学会にて報告した. また,他の物理学分野との関連を探求することも,本研究の目的である.そのひとつとして,光に関する研究を同時に進めた.重力波観測は光(レーザー)を利用した検出器を用いて行われており,また電磁波観測と相補的な関係にあることなどから,光についての研究は重力波研究の促進においても重要な役割を果たす.これらの結果をまとめて,論文として報告した. 以上から,2020年度は研究目的達成に向けて着実に成果をあげられたと言える.そのため,本研究課題の進捗状況について,順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
今後については,まずはこれまでに開発した解析コードの改良に着手する.特に,検出器の雑音などを加味した状況において,本解析コードによる準固有振動のパラメータ抽出がどのような影響を受けるかを考察する.検出器雑音などによるパラメータ抽出精度の悪化は,重力理論の検証において問題となるためである.そこで,重力波の理論波形や検出器雑音に相当するモデルデータ波形を生成し,それに対して開発した解析コードを適用するというテストを実行することにより,雑音の影響下でのふるまいを調査する.これら一連の作業から,解析コードの性能向上を目指す. その後,改良したコードをLIGO,Virgo,KAGRAによって得られた実際の観測データに適用する.それにより求められた結果を,従来の解析手法によって得られている結果と比較する.これらの結果を用いて,一般相対性理論の検証も行っていきたい. また,これに加えて,他の物理学分野との関連についても引き続き模索していく.
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