2020 Fiscal Year Annual Research Report
原核生物の「隠された生命の樹」: "培養"で見出す排水処理プロセスにおける生態
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20J01007
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中原 望 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | C1代謝 / 陸域地下生命圏 / 極小微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
極小微生物 (ultra-small prokaryote,0.22マイクロメートル以下の細胞サイズ) は、細胞内の隅々まで限られた栄養やATPなどを効率的に拡散させるために小さな細胞サイズを有しており、これは貧栄養環境下で生き残る生存戦略であると考えられている。しかしながら、好気・嫌気性環境を含めても極小微生物の分離例・生理生態学的な知見は乏しく、特に嫌気性環境における極小微生物の分離・培養ならびに生理学的特徴の理解については、アーキアにおいて数例のみであり、バクテリアについてはほとんど理解されていない。 本年度は、嫌気性環境における極小微生物の1) 集積培養およびゲノム解析を用いた純粋分離の試み、2) 遺伝子学的特徴の理解を目的に研究を遂行した。なお、当初は、都市下水を中心として集積培養を行う予定であったが、下水中での新型コロナウイルスの残留、0.22マイクロメートル以下の濾液を培養の対象とすることを考慮すると、研究の遂行上、新型コロナへの感染リスクを上げてしまう可能性を排除できず、対象を下水から陸域地下圏のサンプルに変更した。 そのため、当初想定していた新規系統群とは異なるバクテリアであったが、濾過フィルターを通過するActinobateria門の新目に属する嫌気性極小バクテリアを陸域地下圏サンプルから集積培養することに成功した。さらに、系内のメタゲノム解析を実施し、ゲノム情報から代謝経路の推定を行うことで絶対共生関係が必要であるのか、基質を変更すれば単独で生育可能か等、効率的にActinobateria門の新目に属する嫌気性極小バクテリアを分離する方法を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響を鑑み、対象とするサンプルを下水から陸域地下圏のサンプルに変更した。その変更に伴い、培養に用いるサンプルが少量しか得られなかったため、研究計画を連続式培養から単式培養に変更した。得られた集積培養系に対しては、なるべく完全長ゲノムを得られるようにするため、ロングリード・ショートリードの両方のシーケンサーを用いてシーケンス解読を行なった。その結果、系内に優占して存在する4種類の微生物種のうち、2種の完全長ゲノムが決定でき、残りの微生物種についても遺伝子学的特徴を理解するには十分な完全度のゲノム配列を解読することができた。 続いて、上述で決定した (完全長) ゲノムを用いてゲノム解析を行った。系内の微生物種が共通して有していた代謝経路は、解糖系・ピルビン酸代謝・C1代謝 (Wood-Ljungdahl pathway) であった。一方で、メトキシ芳香族化合物を利用できる代謝経路は、Actinobacteriota門の新目を代表する未培養嫌気性バクテリアのみに発見できた。つまり、現在のメトキシ芳香族化合物を分解する系において、本研究で対象とするバクテリアが分離できないとすると、本菌株を分離するためには、本菌株のみが生育できる選択圧をかけなければならないことを意味していた。このことから、サイズ選択的な分離方法は、Actinobacteriota門の新目を代表する未培養嫌気性バクテリアを分離するために極めて有効な方法であると考えられた。さらに、共通するエネルギー代謝のうち、糖分解するよりもエネルギーを得難いピルビン酸を利用することで系内の全体の増殖を抑えつつ、フィルター濾過を行った。その結果、16S amplicon シーケンスを行ったところ、目的のバクテリアの単一培養系を得えることができた。上述の理由から、おおむね順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究当初の目的である極小微生物の生理生態の理解を目指し、本年度研究を遂行した。 培養系内を包括的に理解することで、本研究で目的とする扱いの難しい嫌気性微生物の分離に成功した。しかしながら、継代培養を繰り返していくと生育が不安定になりがちであり、アミノ酸やその他の同化代謝に必要な栄養塩をゲノム上の代謝経路から推定し、生育速度の促進・安定した培養系の維持を目指す。そして、その単一性を複数の方法で確認しながら、基本的な生理学的特徴、利用できる基質についても調査を進めていく予定である。 次に、本研究で対象とする嫌気性極小微生物であるActinobacteriota門の新目を代表する未培養嫌気性バクテリアの特筆すべき特徴として、脱メチル化遺伝子を含むC1代謝経路がある。したがって、共生培養系の構築を行う。本研究で対象とするActinobacteriota門の新目バクテリアがエネルギー獲得のために使用する基質は、熱力学的に自発的に反応が起こらないことから、系内で蓄積する代謝産物を除去するメタン生成アーキアとの共培養が必須であると考える。そのため、数種類のメタン生成アーキアを使用して今日培養系の構築を検討する。さらに、共生系の構築に成功ことを見越して、共生培養系における添加基質の脱メチル化に伴う代謝産物の同定を行うため、最適な分析方法の検討を進めていく必要がある。 最後に、本研究で分離したActinobacteriota門の新目のバクテリアは、扱いの難しい嫌気性微生物である。そのため、その扱いの難しさを勘案しながら、上述の点に重点を置きながら引き続き、研究を推進していく。
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Research Products
(1 results)
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[Presentation] 無酸素環境における新規Anaerolineae 綱バクテリアの栄養蓄積機能の発見2020
Author(s)
中原望,Chihong Song,小河原美幸,田角栄二,宮崎征行,高木善弘,延優,玉木秀幸,玉木秀幸,村田和義,井町寛之
Organizer
第54回日本水環境学会年会