2020 Fiscal Year Annual Research Report
固体中の原子変位に関する電子論の構築と反強誘電体合成への応用
Project/Area Number |
20J01149
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉田 傑 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 空間群 / ヤーン-テラー効果 / 強誘電体 / 反強誘電体 / 八面体回転 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体中での原子変位は---たとえそれがごく僅かであっても---結晶の対称性を低下させ、同時に結晶の弾性的・電気的・磁気的な物性を大きく変化させる。原子変位は、固体の物性をチューニングする有用な手段であるものの、それを自由に誘起するための指針は、限られた物質群や変位パターンを対象としたものしか存在しない。 本研究では、結晶の電子構造と変位パターンを関連付け、原子変位を統一的に扱える「固体中の原子変位に関する電子論」の構築を試みる。得られた理解に基づいて、狙った原子変位を意図的に引き起こすことで、反強誘電体をはじめとした機能性材料の新規合成を目指す。
令和2年度は、基礎理論の構築を念頭に置いた。二次ヤーン-テラー効果の理論をゾーン境界フォノン凍結に拡張する理論研究を進めるとともに、第一原理電子状態計算の結果に基づいて当該理論の検証を行った。前者については、研究計画段階で構想していた通り、波数の異なるブロッホ状態が相互作用することによって、ゾーン境界の原子変位が誘起されることを示した。後者については、構築した理論を実在する化合物群に適用することで、電子状態・結合状態の変化と原子変位が強く相関していることを確認した。加えて、ゾーン境界フォノン凍結の代表例である酸素八面体回転を扱い、典型的な強誘電体であるBaTiO3における極性変位との比較を行った。その結果、幾何的な要因で生じるとこれまで信じられてきた酸素八面体回転も、共有結合に誘起される変位の一種であることを明らかにした。これらの研究成果は投稿論文としてまとめており、R3年度初旬の投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R2年度は、基礎理論の構築を行うという目標を達成することができた。例として扱った酸素八面体回転は、間接型強誘電体や反強誘電体の設計に利用できるため近年注目されている原子変位である。その電子論的な起源を初めて明らかにし、空間群の既約表現に基づく選択則も考察することができた。従来の古典的な理解では回転のパターンを統一的に整理できないが、電子論では対称性の観点からそれが可能である。したがって、今後予定している実験的研究の中で回転パターンを制御し、新規の機能性材料を探索する上で重要な基礎になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度の研究では、八面体回転以外の構造歪みにも理論を展開し、その一般性と有用性を確かなものにする。全く異なる種類の原子変位に対して統一的な視点を提供するべく、R2年度と同じアプローチで研究を進める予定である。特に、化学組成が類似しているにも関わらず、変位パターンが大きく異なる化合物間で比較を行い、その差異の解明に重点を置く。 並行して、蓄積した知見をもとに反強誘電体になると予想される物質を考案・合成する。
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