2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J01214
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Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
目差 尚太 沖縄国際大学, 沖縄国際大学大学院地域文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 琉球諸語 / モダリティ / 可能表現、能力可能、状況可能 / 終助詞 / 発話 / 話しあいの構造 / 必然表現 / 与那国方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目は、学会誌論文1本、研究発表を2つ行うことができた。 論文では、モダリティを研究するために話しあいの構造の中における文の機能との関わりの中で、文の対象的な内容と形式を分析する必要があること、その実際の分析と記述、その実践的意義、その分析についての日本の方言研究の扱いについて記述した。本研究課題が掲げるモダリティ研究の分析について理論的に、具体的に示すことができた。 研究発表「文=発話の意味論における琉球諸語の可能性」では、次のことを示した。方言研究では自然談話を扱うため、発話としての文とモダリティの相互関係を分析しなければならない。このことは一般言語学、言語類型論的観点から見ても重要である。発表では、琉球諸語の様々なモダリティ形式を例にあげて示し、発話の意味の全てが文の意味になるわけではないこと、ある文法形式にとって本質的なコンポーネントが文の意味に入ってくることを論として付け加えた。そして、琉球諸語のモダリティに〈聞き手利益への配慮〉、〈情報の正確な伝達〉に奉仕するモダリティが一般的に存在することもまとめた。 研究発表「琉球諸語のモダリティ―与那国方言の可能表現の文―」では、琉球諸語の可能表現の文が他の日本諸方言と同じように〈能力可能〉、〈条件可能〉、〈実現の可能性〉、〈実現〉を表現することをまとめ、与那国方言の可能表現の文も、《可能》の文法的意味としてあげられる上記の意味を表現することについて分析・記述した。さらに、与那国方言の可能表現の文は、必然表現の文へと移行している場合と、意志文として働いている場合とがあることを示した。これらのことは、可能表現形式の意味を〈条件可能)〉等の意味を記述するに留まっていた従来の琉球方言研究には見られなかった言語実態である。このことを通して、琉球諸語の可能表現の文の研究も、必然表現の文や意志文との関わりで深めていく必要を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目は、まず、対象言語にどのような疑問的なモダリティ形式と認識的なモダリティ形式が現れるかに重点をおいて面接調査を行い、その後に自然談話の中の文を分析して、対象となるモダリティ形式にとって適切な場面と文法的な条件を抜き出しながら、その本質的な文法的な意味と機能を明らかにする予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の影響もあり、高齢話者のことを配慮して、研究にあたっての自然談話調査・面接調査が十分にできなかった。そのため、リモート調査が出来るように機材を調達し、リモートで調査を行うことのできる話者の方には、リモート調査の依頼をし、協力を得て行った。しかし、複数の話者による自然談話の臨地調査はほとんど行うことができず、また、リモート調査での自然談話はラグが生じる等があり、面接調査に偏らざるを得なくなった等の原因があったのが理由としてある。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、一次的な面接調査票によって得られた諸形式が自然談話の中でどのように原則的に、法則的に現れてくるのか、より自然な環境を取り出し、その環境の中でモダリティ形式をもつ文が他の文とどのように相互に作用しているのか、どのようにふるまっているのかを分析して、それらの形式のモダリティと法則性についての仮説を立てる。その仮説をもとに、二次的な調査票を作成して面接調査を行って仮説を検証し、それらのモダリティ形式が義務的に排除され、選択される条件・法則をより自然な形で抜き出す。つまり、自然談話の分析結果に基づく面接調査票を作成して、より自然な形で検証するのである。この二次調査を行いながらも、随時調査票の修正、自然談話収集と書き起こし作業と分析を行う。 しかし、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の影響もあるので、本年度もリモート調査や、調査票を郵送して行う等の面接調査に限られてしまう可能性が高い。そのため、面接調査の内容も一つずつの文だけではなく、場面設定を行った会話形式の例文を作成するなどして、自然談話に近い形での調査を行う予定である。
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